(まずはここからお読みください。追記 2026.3.1)
移乗介助の世界は、ここ10年で劇的にアップデートされてきた。この記事を最初に書いたのは2016年。その頃の移乗介助の主流は「相手の股の間に足を入れる」やり方だった。しかし、今の現場では「相手の動きを邪魔しないスペース作り」が最優先。10年前の私が「これ、ちょっと動きにくいな…」と感じていた違和感は、今や「ノーリフティング」という新しい常識として確立されている。
昔のやり方で教えている先輩も、最新のやり方に戸惑う新人も、ぜひこの「検証の歴史」を読んで考えてみてほしい。
2016年版の検証
ここからは、私が2016年に書いた当時の検証だ。当時は「足を股の間に入れる」ことに対する共通の概念がなく、国家資格を付与する教科書でさえ、記載の不一致が見られていた。
2016年当時の記事を、そのまま残しているので、ご興味のある方はどうぞ。
Yahoo○○袋より
質問 「職場で意見が分かれています…」。
「職場で意見が分かれています。移乗介助で、相手の股の間に自分の足を入れるのは、駄目なのかを教えて下さい」

さて、皆さんならどう答えるだろうか。インターネット上の「回答」を見てみると、意見が分かれているようだ。ケースバイケースという答えが一番多いかも知れない。
「介護福祉士」のテキストは…
国家資格である「介護福祉士」のテキストを見れば、答えが書いてあると思い、調べてみた。
「全介助の介助方法」として紹介されている項目を読んでみたが、結論から言えば「統一見解がない」との解釈に至った。(2019.3.10削除)
足を股の間に入れている
➀新介護福祉士養成講座(生活支援技術II、第3版、2014、中央法規)より
足を股の間に入れていない
➁介護福祉士実務者研修テキスト(第2巻、2015、中央法規)より
(追記 2019.3.10)
上記➀「新介護福祉士養成講座」は、最新刊「介護福祉士養成講座6 生活支援技術Ⅰ(2019.3.31発行)」として出版された。股の間に足を入れない方法へと写真が変更されている( p147)。

実際に働いている人の意見は…
「足を入れる」派と「足を入れない」派の意見を、インターネット上から集めてみた。
足を入れる派(2018.1.4現在)
- 足を入れて体を近づけることで自分と相手の重心位置が近くなり、運動学的に最も楽に行なえる方法だからです。
- 両足を広げられるので、基底面がしっかりするので、重たい方や背の高い方の場合、やり易いのは事実です。
足を入れない派(2018.1.4現在)
- 人間の股間に足を入れるのはセクハラ・人権無視に値する。
- 人権を無視しているので、試験でこれをやると一発で落ちる。
- 実技免除のために行われる介護技術講習では、利用者の足の間に入れ、くるっと回すやり方はNGと言われました。
- その介助方法は過去の方法だよ。
- 両足の間に足を入れないで自分の膝で相手の膝をロックしながら行なっています。
- 自分と相手が近付き過ぎると、立ち上がりの際に必要な体の前屈に伴う重心の前方移動が妨げられてしまいます。
- 足を入れると、狭くなってフットレストに接触してしまう。
その他書籍や各メディアの意見は…
足を入れている例
-例1-

参考動画;プロに学ぶ○○○○(Aメディケア)
-例2-

参考動画;動画で分かる…(看護師教材)
-例3-

参考書籍;K介護技術(ナツメ社)
-例4-

参考書籍;Y介護技術(金原出版)
足を入れていない例
-例5-

参考書籍;W移動のしかた(三輪書店)
-例6-

参考書籍;Sを引き出す介助(中央出版)
-例7-

参考書籍;G介護テクニック(講談社)
-例8-

参考書籍;Sキネステティック(日総研)
結論
書籍やメディアなどからは、統一された見解を見つけることは出来なかった。そこで今回のテーマの結論は以下のようにしてみた。
- 相手の膝が内側へ倒れそうなら自分の膝を中へ。
- 相手の膝が外側へ倒れそうなら自分の膝を外へ。
- 相手の膝が膝折れしそうなら自分の膝で相手の膝を押さえて、若しくは自分の両膝で相手の膝を挟んで

ただし…
ネット上には「実技試験の際に足を入れたらダメとの指導を受けた」との記載もあるため、試験などでは「足を入れない方法」を選択するのが無難かと思われる。
さて、最初の質問をもう一度読み返してみよう。「相手の股の間に自分の足を入れたら駄目なんですか…?」。この質問に対して、あなたならどう答える?
(追記 2026.3.1)
1.なぜ現在は「足を入れない」が主流になったのか。
「失礼だから」というマナーの側面も大きいのだが、理学療法士的な視点では、以下の理由が重視されている。
・前傾姿勢を邪魔してしまうから
立ち上がりの基本は「お辞儀(前傾)」である。介助者が股の間に足を深く入れると、ご本人が頭を前に下げようとしたときに、介助者の身体や足が壁になってしまい、スムーズな立ち上がりを妨げてしまう。
・「密着=安全」ではないという認識
昔は「密着=安全」と考えられていたが、今は「お互いに動けるスペースを確保する=安全」という考え方にシフトしている。
2.現在の主流な立ち位置と方法
今の主流派は「相手の動こうとする力を引き出し、足りない分だけ最小限の力で支える」というスタイルである。
・足の位置;相手の足の外側に置く
相手の足を外側から挟むようにするか、または少し斜め前に立ち、相手が前傾できるスペースを空ける。
・膝ブロック;必要な時だけ「添える」
膝折れのリスクがある場合も、股の間に足を入れるのではなく、介助者の膝を相手の膝の前面にそっと当てる(ブロックする)程度にする。
・抱え上げないで、滑らせる
「よいしょ」と持ち上げるのではなく、ご本人の重心を前方に移動させ、お尻が浮いた瞬間に「くるり」と回転(ピポット)させる動きが推奨されている。
3.「股の間に足を入れる」介助方法が今でも無くならない理由
実際に、今でも昔の移乗介助方法を行なっている人はたくさんいる。その理由は以下の通り。
・ベテランからの直伝が強い
新人スタッフは、学校で習ったことよりも、現場で指導してくれる先輩のやり方を真似する。その先輩が10~20年選手だと、当時の正解?(足を股の間に入れる)をそのまま教えているケースが非常に多い。
・「密着=安心」という直感
初心者やご家族にとって、相手と距離をとるのは「倒れそうで怖い」という本能的な恐怖がある。そのため無意識に足をぐっと踏み込んで密着してしまう。
・病院と介護現場のギャップ
病院などでは「生活動作の質」よりも「とにかく転倒させないこと(防御)」が優先され、今でも古いスタイルが残っている所が多い。












