立ち上がりの介助で、教科書通りに「しっかり足を引いてお辞儀をしましょう」と声をかけているかも知れない。
もちろん、重心を前に移すためには足を引くのが基本だ。しかし「引き過ぎ」が、かえって立ち上がりを困難にさせているケースがあることに、お気づきだろうか。
今回は、高い椅子と低い椅子の違いから「本当に楽な立ち上がり」の条件を考える。

なぜ「高い椅子」は楽に立てるのか?
想像してみよう。
- 膝が深く曲がるような低いソファ
- お尻を乗せるだけのカウンターチェア(高い椅子)
どちらが楽に立てるかは一目瞭然。高い椅子の方が楽に立ち上がれる。理由は、膝の曲がる角度が緩やかだからである。
膝は、深く曲がれば曲がるほど、そこから伸ばすために強大な筋力(大腿四頭筋の力)を必要とする。逆に、最初から膝が伸びに近い角度であれば、少しの力で立ち上がることが出来るのだ。
「足を引く」ことが、立ち上がりを邪魔する矛盾
ここで「足を引く」という教科書のルールを振り返ってみたい。
足を後ろに引くと、確かに重心は足の裏に乗りやすくなる。しかし同時に「膝の角度を深くしてしまう」という副作用が生まれる。
- 教科書の教え;重心を乗せるために、足を限界まで引かせる。
- 現実の矛盾;足を引くほど膝が鋭角になり、立ち上がる為のパワーがより必要になってしまう。
筋力が低下している高齢者にとって、この「膝を伸ばすための多大なエネルギー」は、重心移動のメリットを上回る負担になることがあるのだ。

「ちょうどいい」を探る
「足を引く」のは、あくまで重心を、足の上に乗せるためだけの手段である。もし膝の力が弱い人であれば、以下のようなアプローチが有効だ。
- 足を引き過ぎない;
お辞儀で重心を前に出せるのであれば、足はあえて「膝の角度が90度より少し手前」くらいにとどめる方が、膝を伸ばす力は少なくて済む。 - 「お辞儀」の深さでカバーする;
足が引けない分、しっかりとお辞儀をして頭を前に出すことで、重心をカバーする。 - 膝を伸ばしたまま、腕の力で立ち上がる;
手の力を総動員して、足の筋力をカバーする。筋力の弱い人にとって、足を引いて膝を深く曲げることは、まるで低い椅子から立ち上がるかのように感じさせる。膝を伸ばし、足をつっかえ棒のようにして、腕の力で身体を引っ張りあげる事が出来たなら、自力で立上がる可能性が残される。当たり前のように「足を引いて前屈み」を指導することが正しい事なのか、もう一度よく考えてみよう。

まとめ
「足を引く」のは、立ち上がりのための一つのパーツに過ぎない。膝の筋力が弱っている人に、「もっと低い椅子から立ち上がれ!」と難易度を上げているのと同じかもしれないのだ。
ご本人の膝が、一番スムーズに伸びる角度はどこか。「高い椅子なら楽に立てる」というシンプルな原理を、日々の介助に生かしていきたい。
【コラム】片足を半歩前へ出す場合がある
足のステップ動作が困難な人は、最初の足の位置のままで移乗動作を完結させようとする。結果、足がねじれてしまうことがある。
右足を引くと、足がねじれる



ねじれを防ぐため、あえて片足を半歩前へ出す











