4コマ漫画で考えるリハビリ脳の作り方

  理学療法士が「介護とリハビリ」について考えます。

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常識を疑えシリーズ

常識を疑え1 ~立上がりの時は足を引かなくちゃ駄目なのか~

「常識を疑え」というテーマをお話ししよう。介護の「常識」と呼ばれるものについて、違った角度から論じてみたいと思う。第1弾は「立ち上がる時は、足を引いた方が良いのか」について。お暇があればご一読を…。

 

立ち上がる時は足を引いて

「足を伸ばしておいた方が立ちやすいです…」。こんな声に出会うことがある。教科書を読むと、「立上がりの時は、前屈みで足を引く…」と書いてある。どういうことだろう。

立上がり動作のポイントは3つ

そもそも、何で立上がり時に「足を引く」のだろうか。立上がり時の動作を分析してみたい。ポイントは3つ。「浅く座る」「足を引く」「身体を前傾させる」。

まずは浅く座り直す。これは、床にしっかり足を付け身体を前傾させやすくする為だ。因みに移乗介助をする時、この浅く座らせる介助をしない人が多い印象を受けるが、介助のしやすさに大きく影響するので是非実践しよう。

次に「足を引く」動作。これは足の位置を後方へ移動させ、身体を前に倒し易くする為。そして「身体を前傾」させて立ち上がる。この時の頭部の動きは、「前下方へ移動し、頭が膝を超えたら上方へ」という軌跡をたどる。

 

膝を伸ばす…?

それでは、冒頭の言葉「足を伸ばしておいた方が立ちやすい」を、どう考えたら良いのだろう。

下写真A/Bを比較してみよう。Aは足を引いて立とうとしている。Bは足を伸ばして立とうとしている。どちらが立上がり易いだろうか。

これは一目瞭然で「A」、足を引いて立つ方法であろう。

次に写真C/Dを比較してみる。Cは低い椅子からの立上がりで、膝が深く曲がっている。Dは高い椅子からの立上がりで、膝の角度は緩やかだ。どちらが立上がり易いだろうか。

これは一目瞭然で「D」、高い椅子からの立上がりであろう。

つまり写真C/Dにおいては、「膝の角度が深い=立上がりが難しい」「膝の角度が緩やか=立上がりが楽」という方程式が成り立つ。

 

膝の角度のみに注目すると…

もう一度、写真A/Bを見てみたい。今度は「膝の角度」のみに注目してみよう。

どうだろう。Aは膝の角度が深く、Bは膝の角度が緩やかだ。確か写真C/Dで述べたように「膝の角度が緩やか=立ち上がりが楽」という方程式が成り立っていた。膝の角度のみで議論すれば、「B」のほうが立上がり易いという矛盾した結果となるのだ。

 

 

足を引かない

つまり「足を引かないで立上がること…」、この方法論を否定しないということなのだ。筋力の弱い人にとって、足を引いて膝を深く曲げることは、まるで低い椅子から立ち上がるかのように感じさせる。そこで、膝を伸ばし足をつっかえ棒のようにして、腕の力で身体を引っ張りあげる事が出来たなら、自力で立上がる可能性が残される。当たり前のように「足を引いて前屈み」を指導することが正しい事なのか、もう一度よく考えてみよう。

足を引かないで立上る写真

 

常識を疑え

教科書に書かれていることを「忠実に」実践することは大切なことである。しかしもっと大切なことは、「その人にとってどうなのか…」ということ。冒頭の言葉、「足を伸ばしておいた方が立ち易いです…」という声をダメ出しするのか、それとも新たな可能性を探求することが出来るのか。もう一度、介護の「常識」を見直してみよう。

ご精読ありがとうございました

 

 

補足 ~片足を半歩前へ出す場合がある~

足のステップ動作が困難な人は、最初の足の位置のままで移乗動作を完結させようとする。結果、下図のように足がねじれてしまうのだ。

このねじれを防ぐ為に、下図のように「片足を半歩前へ出す」場合がある。覚えておこう。