今回は、「介助バーを使ったほうが良い理由」を考えてみよう。平成12年の介護保険レンタル制度導入以来、在宅での介助バー普及率は格段に高まっているのだが、こと施設サービスにおいては、予算の都合で介助バーを揃えられない所もあるようだ。しかし以下に説明する理由から、なるべく購入することをお勧めする(別に業者の回し者ではないのだが…)。お暇があればご一読を…。
介助バーとは
ベッド柵に付いているL字型の柵は、「介助バー」と呼ばれている。その他「L字バー」「L字柵」などと呼ばれることもあるようだ。車椅子とベッド間で乗り移りをする際に、手すり代わりとして使用する。
事例検討
Aさんが、ベッドへ移乗しようとしている。介助バーは付いていないので、ベッド柵をつかんで立つところである。さて、どのようなリスクが生まれるのか想像してみよう。
リスクを探す
ブレーキは掛けてあるのか、靴はちゃんと履いているのか、座り損ねてずり落ちるんじゃないか、など様々なリスクが想像出来たかと思う。見るからに身体が固そうで、体幹をねじる動作が困難な様子が伺える。また立ち上がりも、つかまって何とか立てる程度で、方向転換時の足のステップ動作は困難かも知れない。
お尻が離れていく
移乗動作には、体幹の回旋運動を必要とする。つまり身体をねじらないとうまく座れないのだ。Aさんは左手を柵に置き、右手は車椅子のアームレストを把持している。この状況で移ろうとすると、頭はベッド方向へ向かうのだが、逆にお尻はベッドから離れていく。本当はお尻をベッド方向へ運びたいのだが、頭がベッドへ近づけば近づくほど、お尻はベッドから離れていくという矛盾を生ずるのである。
するとどうするか。無理に身体をねじって、お尻をベッドに乗せようとするのだが、お尻が届かずにずり落ちるというリスクを生むことになる。
足がねじれたまま座ろうとすると…
驚くべきことに、足がねじれたままでベッドに座ろうとすると、例え転倒転落を防げたとしても骨折を引き起こす可能性がある。「老人介護の個人的ホームページ」の作者である大渕氏によると、移乗時の「足のねじれ」に伴い、下記の部位で骨折を引き起こす可能性があると警笛を鳴らしている。
(引用 ttp://homepage3.nifty.com/MYKAIGO)
さてどうするか…
図の位置に椅子を置いてみた。すると頭はベッドから離れ、逆にお尻はベッドへと近づいていく。「頭が西向きゃ尾は東」…。ごく当たり前のことなのだが、案外このような発想が抜け落ちることがあるのだ。
ここに椅子があれば、身体や足の「ねじれ」は最小限で済みそうだ。つまりこの位置に介助バーが来れば良い訳である。
「常識」を吟味すること
介助バーが今ほど普及していなかった頃は、ベッド横に椅子をくくりつけて対応した時代もあった。介護保険レンタルが可能となってからは、爆発的に導入されてきた印象がある。
しかし、ただ単に介助バーを手すり代わりとして考えるのではなく、その場所に介助バーがあると、動作がどう変わるのかを吟味すること。するとその先に、新しい介助方法を発見出来るのかも知れない。
移乗介助には、様々なテクニックが存在する。「吊る介助から乗せる介助へ 」というテーマで、違った切り口での介助方法を紹介している。お暇があれば御一読を。