「食事の時は、上を向いて食べると
むせるので、下を向いてね」
介護の現場やご家庭で、
良く聞かれる言葉である。
でも実は、下を「向きすぎる」と
かえって
・口が開かない
・飲み込みにくい
という逆効果になることを
ご存じだろうか。
今回は、教科書が教えてくれない
「ちょうどいい、あごの角度」
について考えてみたい。

上を向かない、そして下も向かない
先ずは、ご自身で試してみよう。
実験1;上を向く
天井を見上げてみよう。
自然に口が開いてしまうのが
分かるだろうか。
頑張って閉じようとすると、
あごが引っ張られて
口を閉じにくく感じるだろう。
これではしっかり噛むことが出来ない。

実験2;思いっきり下を向く
思いっきり下を向いてみよう。
自然に口が閉じてしまうのが
分かるだろうか。
頑張って開けようとしても、
あごが胸にぶつかって
口を開けにくく感じるだろう。
これでは食べ物を口に運べない。

つまり、食事介助で
「下を向いて」と伝えすぎて
顎が胸についてしまうと、
利用者は物理的に
口を開けられなく
なってしまうのだ。

なぜ「少しだけ」下を向くのがベストなのか
「上を向かない」
そして、
「下を向きすぎない」
この角度について、
実は命を守るための
3つの大切な理由がある。
①口がしっかり開くから
先ほどの実験で体験したように、
下を向き過ぎて
あごが胸についてしまうと
物理的にあごを動かすスペースが
なくなってしまう。
これでは一口分を口に入れることさえ
一苦労…。
適度な隙間があるからこそ、
しっかり口を開けて
モグモグと噛むことが出来るのである。

②筋肉が一番パワーを出せる角度だから
筋肉には、ゴムのように
「一番力が入る長さ」がある。
下を向き過ぎると、
筋肉がたるんでしまって
飲み込む力が弱くなる。
上を向き過ぎると、
筋肉が伸び切ってしまって
上手く動かせない。
少しだけ下を向いた状態は
飲み込む筋肉が
最も効率よく動ける
いわば「飲み込みの黄金角度」
なのだ。

③重力で食べ物が勝手に流れるのを防ぐため
少しでも上を向いていると
ゴクンと飲み込む準備ができる前に
重力で食べ物が喉の奥へと
滑り落ちてしまう。
まだ心の準備(飲み込む反射)が
出来ていない状態で、
肺の入り口に食べ物が流れてくると
ひどくムセたり、
誤嚥の原因になったりする。
少し下を向くことで、
食べ物を口の中に一度とどめ、
安全に飲み込む準備ができるのだ。

現場で使える!ちょうどいい角度の見つけ方
介助をするときは、
ご本人のあごの下を見てほしい。
目安は
「あごの下に、指3本分のスペース」。
これくらいの「軽度前屈位」なら
- 口がしっかり開く
- 食べ物をしっかり噛める
- 飲み込むときに、気管のふたが閉まりやすい
という、いいことずくめの状態になる。

まとめ
「下を向かせる」というルールを
ただ守るのではなく、
「この角度で口は開けやすいかな?」
と観察すること。
その「ちょっとした隙間」を
作ってあげる優しさが
安全でおいしい食事につながるのだ。

