常識を疑えシリーズ

常識を疑え6 ~なぜ寝返りは患側方向じゃダメなのか~

2017年6月9日

 

さて今回は「常識を疑え」シリーズの第6弾。このシリーズは、介護の「常識」と呼ばれるものについて、ちょっと違った角度から論じている。今回のテーマは「片麻痺利用者様の寝返りの方向」についてである。お暇があればご一読を…。


【4コマ漫画】老人ホーム日記

 

 

介護スタッフからの質問

先日、介護スタッフから次のような質問があった。

「片麻痺の利用者様で、いつも患側(麻痺側)に寝返る人がいるんです。麻痺した肩を痛めるから止めてほしいんですけど、患側の方が寝返りし易いって言うんです。どうすれば良いのでしょうか…」。

患側方向へ寝返る

 

先ずは国家試験を解いてみよう

片麻痺者の「寝返り方向」について、先ずは国家試験問題を解いてみよう。

①理学療法士国家試験過去問より(一部改変)

正誤を答えなさい。

<問題> 患側を下にして寝返りする

<解答> × 寝返りは健側方向へ、患側が上になるように指導する

②看護師国家試験過去問より(一部改変)

正誤を答えなさい。

<問題> 健側を下にした側臥位を避ける

<解答> × 患側を下にした側臥位を避ける

 

 

「健側」へ寝返るのが正解

国家試験を見て分かるように、片麻痺者の寝返りは「健側へ寝返る」のが正解。例えば、右麻痺の人は「左側」へ寝返るのが正しい方向となる。

健側方向へ寝返る

 

 

なぜ健側方向に寝返りしなければならないのか

健側方向へ寝返る理由は、以下の2つで説明できる。

①患側に寝返ると、麻痺した肩に痛みが出る可能性がある

麻痺した肩は、筋肉が緩んで亜脱臼となっている場合がある。さらに感覚鈍麻や筋委縮・血流障害等が絡むことで、身体の下敷きとなった肩に大きな負担を強いる可能性があるのだ。

麻痺側に寝返ると下になった肩が痛い

 

②患側に寝返ると、次の「起き上がり動作」へ繋がりにくくなる

寝返り動作を、起居動作の一連の動きの中で捉えてみよう。患側へ寝返りした場合、次に肘をついて身体を持ち上げなければならない。しかし麻痺した上肢では、身体を支えることが出来ず、起き上がることが難しいのだ。

麻痺した上肢で身体を持ち上げられない

肘をついて身体を支えることが出来る

以上の理由から、介護の教科書では「健側方向に寝返る」と記載されている。

 

患側方向が寝返りし易いと感じる理由は

それでは冒頭「患側方向が寝返りし易い」というのは、どういう事なのだろうか。以下の2つの理由が考えられよう。

①健側でベッドを踏み込み、患側方向へ寝返る

膝を立てた健側の下肢でベッドを踏み込むと、身体を患側方向へコロンと回転させることが出来る場合がある。これを「楽」だと感じているのだ。

健側の足でベッドを踏み込むことで麻痺側へころんと転がることが出来る

 

②健側へ寝返ると、麻痺側の上下肢を「重し」と感じてしまう

冒頭の利用者様は、健側へ寝返るのを「やりにくい」と感じている。健側へ寝返る際、反対側の麻痺した上下肢を置いてきぼりにしてしまい、それを「重し」と感じるのだ。また「痙性」があると麻痺した上下肢を後方へ引いてしまい、余計に重く感じるだろう。右側の空間失認や身体失認・深部覚鈍麻などが絡んだ利用者様に多いパターンである。
それに比べ、患側への寝返りは案外上手く行きやすい場合があり、冒頭の発言に繋がったのだと想像出来る。

健側に寝返る際、麻痺側上下肢が重しになってしまう

 

 

常識を疑え

教科書に書かれていることを「忠実に」実践することは、身体の回復を目指す為にも、また安全を確保する上でも大切なことである。しかし、実際の場面では教科書通りに行かないことも沢山存在する。

今回のケースは、「健側への正しい寝返り方法を指導する」のが正解なのだろう。しかし、その前に考えるべき事がある。なぜ利用者様が「患側の方が寝返りし易い」と発言したのか。その言葉をダメ出しする前に、言葉の意味するものを探求する姿勢が大切だ。

さて、冒頭の職員さんの質問「患側の方が寝返りし易いって言うんです。どうすれば良いのでしょうか…」に対し、あなたならどう答えるだろう。

ご精読ありがとうございました