いよいよ「常識を疑え」シリーズも第10弾。ここまで、介護の「常識」と呼ばれるものについて、ちょっと違った角度から論じてきた。今回は「四点歩行器で階段を登ることが出来るか」について考えてみよう。お暇があればご一読を…。
4コマ漫画
階段用の四点歩行器で大もうけ!
事例紹介
Aさんは頚椎症で手足が不自由だ。そのため、四点歩行器を用いて家の中を歩いており、杖歩行は難しい。玄関の段差は手すりをつかめば昇降可能。
ある日のこと、「奥歯の詰め物が取れちゃって、歯医者に行きたいんだよ」との相談があった。まぁ奥さんが一緒に付き添ってくれるので大丈夫かと思ったが、念のため現地調査に行ってみた。
そしたらなんと!
「15㎝の段差が2段」「踏面30㎝」「手すりなし」という障壁が待ち受けていたのだ。
グルグルと頭の中を教科書が駆け巡る。「四点歩行器は平らな所で使うもの…」「まぁ1段くらいなら登れるけど、2段以上じゃ無理だろうなぁ…」。
「どう考えても、斜めになって転倒するよなぁ…」
やはり、奥さんと2人で歯医者に行くのはリスクが高いとして、「一度自宅前の段差で模擬練習をしてからにしましょう」ということにした。
歯医者に行っちゃいました
1週間後の訪問日。自宅に伺うと、ご本人がニコニコしながら話しかけてきた。「歯医者に行っちゃいましたよ!」
「えっ?」と耳を疑ったが、どうやら待てずに行ってしまったようなのだ。どうやってあの2段の段差を登ったのか聞いてみると、以下のような方法だった。
登るとき
降りるとき
常識を疑え
「危なくて出来ないだろう」という思い込みにより、対応が後手に回ってしまった。つまり「四点歩行器は平地で使うもの」という勝手な思い込みが、判断を鈍らせたようだ。そして今回得られた結論は次の通り。
「四点歩行器は2段程度ならば昇降できる」
当然リスク管理が必要だが、出来ないことはないという事だ。
じゃあ3段の段差はどうなんだろう。段差15㎝で踏面30㎝とすると「高さ45㎝で60㎝先」に四点歩行器を置かなければならない。ちょっと難しいような気がするが、「思い込み」は捨てないとね。
さて...
「生活の力」と呼ばれるものは、時に医学や介護の常識を超える事がある。「病院で歩けなかった人が、家に戻ったら歩けるようになった」「病院で口から食事が摂れなかった人が、家に戻ったら口から食べれるようになった」等の症例は、決して少なくない数にのぼると想像する。
「出来ない」理由を挙げる前に、どうやったら出来るかをトコトン探求すること。つまり自分の中の「常識」に縛られることなく、新たな可能性を探求する「柔軟性と創造力」を鍛えたいものである。
訪問サービスでは、常識を疑いたくなるケースに出会うことが多い。そんな中で「四点歩行器の特殊な使い方」についてのお話を、4コマ漫画でご紹介しよう。