介護の教科書には、正しい介助方法が記載されている。「移乗動作は健側方向へ」「階段を降りる時は患側から」「食事は前屈位で」など、様々な介護の常識が存在する。そして、その一つ一つにはちゃんとした理由や根拠があるのだ。
そこで今回は「片麻痺利用者の更衣動作~なぜ服を着る時は患側からなのか~」について考察してみよう。お暇があればご一読を…。
国家試験を解いてみよう
第99回看護師国家試験からの出題。頑張って解いてみよう。
<問題>
右片麻痺患者の着衣交換で正しいのはどれか。1.右から脱がせ、右から着せる
2.右から脱がせ、左から着せる
3.左から脱がせ、右から着せる
4.左から脱がせ、左から着せる<解答>
『3』 麻痺や障害がある場合には、健側(左)から脱がせて、患側(右)から着せるのが原則である
更にもう一つ、介護福祉士のテキストを覗いてみよう。
『麻痺の無い側から脱ぎ、麻痺のある側から着る脱健着患で』
(介護福祉士実務者研修テキスト第2巻 介護Ⅰ、中央法規、p384)
以上より、更衣動作の原則は「脱健着患」、つまり健側から脱いで患側から着るのが正解となる。
用語解説
【「健側」「患側」「麻痺側」の意味について】
Y○HOO知恵袋より
さて、ネット上の掲示板に「更衣動作」に関する質問があった。
<質問> 服を着るとき、なぜ健康な腕や脚から脱がして、悪い方から着せるのですか?
さて、あなたなら何と答えるだろうか。
服を着る時は患側から
服を着る時の動作方法を見てみよう。下図は、教科書に書かれている「右片麻痺者が服を着る動作」である。「脱健着患」の基本より、服を着る時は患側から。
①袖口を確認する
②袖口に患側の手を通す
③患側の肩を通す
④健側方向へ服を引っ張る
⑤袖口に健側の手を通す
⑥良く出来ました
健側から着たらダメなのか
それでは、逆に健側から服を着たらどうなるのだろうか。図を追いながら考えてみよう。
⑦袖口を確認する
⑧健側の手を通すのだが、片手で通すのはなかなか大変。
⑨手を通したら、健側の肩まで引き上げる
⑩患側の肩を覆う。
⑪ここまでか…。麻痺した手を袖に通すことは、とても難しいのだ。
患側の麻痺した手を通す為には、袖に「ゆとり」が必要
もう一度、見返してみよう。片側の袖に腕を通した後なので、反対側の袖には「ゆとり」がない。この状態で麻痺した手を通そうと思っても、下図のように大きな可動域が必要とされる為、痛みを誘発するリスクが高くなるのだ。
④
⑤
利用者本位で考えよう
更衣動作は「脱健着患」と教科書に書かれている。でも実際の場面で「あれっ、どっちから着せるんだっけ?」と忘れてしまうことがある。
でも大丈夫。そんな機械的な言葉を覚えなくとも、利用者本位で考えれば、以下の表現がすぐに思い浮かぶだろう。
袖に「ゆとり」があれば、相手に痛みを与えない。
よって、袖に「ゆとり」があるうちに、患側上肢を通してしまおう。
常識を疑え
教科書に書かれている「介護の常識」と呼ばれるものについて、その内容を忠実に守って仕事をすることは、とても大切なことだと思う。しかし、表面上の言葉を「ただ」なぞって仕事をするだけでは駄目なのだ。その原理原則が生まれた背景因子を理解することが必要。「脱健着患」なんて難しい言葉に振り回されず、利用者本位の介護を追求していけば、自ずと新しい「常識の解釈」が生まれてくるのだと思う。
【追記】服を脱ぐ時はどうする…?
服を脱ぐ時は健側から
服を脱ぐ時の動作方法を見てみよう。「脱健着患」の基本より、服を脱ぐ時は健側から。
①
②健側の肩の襟をつかむ
③健側の肩を脱ぐ
④健側の上肢を脱ぐ
⑤患側の肩を脱ぐ
⑥良く出来ました
患側から脱いだらダメなのか
それでは、逆に患側から服を脱いだらどうなるのだろう。
⑦患側の肩を脱ぐ
⑧ここまでか…。麻痺した手を脱ぐことは、とても難しいのだ。