なぜ移乗の「健側ルール」が存在するのか?片麻痺の人が避けて通れない「帰りの患側移乗」をどう乗り切るか

「車椅子は、必ず健側(非麻痺側)に向けて設置しましょう」

介護の基本中の基本として習うこのルール。しかし実際の在宅介護や施設において、このルールを24時間守り通すことは可能だろうか?

実は、どれだけ工夫しても、片麻痺の人が避けられない「矛盾」がそこにはあるのだ。

避けて通れない「行きはよいよい、帰りは恐い」の法則

例えば、右片麻痺の人が、右側に介助バー(手すり)があるベッドを使っているとしよう。

  • 【行き;車椅子→ベッド】
    車椅子をベッドに対して斜めに置けば、左手(健側)で手すりをつかみ、左足で踏ん張って、理想的な「健側移乗」ができる。
  • 【帰り;ベッド→車椅子】
    さて、ここが問題だ。車椅子の位置は、必然的に麻痺側に来てしまう。

つまり、「行き」を健側移乗にしたら、「帰り」は構造上、必ず「患側(麻痺側)移乗」になってしまうのだ。

ベッドの向きを毎回180度変える訳にはいかない。この「詰み」の状態を目の前にして、我々はどう考えればよいのだろう。

<補足>
健側、患側、麻痺側について以下を参考にして下さい。

「患側移乗=ダメ」という呪縛を解く

教科書が健側を勧めるのは、それが「一番安全だから」である。だが、現実の環境がそれを許さないなら、我々は「患側移乗を安全に行なう技術」を身につけるしかない。

「患側から移るのは危険だ。間違っている」と自分を責める必要はないのだ。環境が固定されている以上、それは「避けられない日常」なのだから。

患側(麻痺側)移乗を安全に行なう2つのポイント

  • 「お尻の向き」を先に作る
    回る方向(麻痺側)に対して、あらかじめお尻を少し向けて座り直す。回転角度を小さくすることで、麻痺側の足への負担を減らすことが出来る。
  • 介助者の膝(若しくは手)で「支点」を作る
    麻痺側の膝がガクッと崩れないよう、介助者の膝(若しくは手)で、ご本人の麻痺側の膝を軽く支える。これを「支点」にすることで、ご本人は健側の力だけで回りやすくなる。

まとめ

「どんな時も健側から」というルールは、広くて何もないリハビリ室の中だけの理想論かも知れない。

限られたスペース、固定された家具、動かせない手すり。

そんな現実の環境に合わせて、たとえ患側移乗であっても、安全にコントロール出来ること。それこそが、教科書を読み上げているだけの人には出来ない。

「帰りは患側になっちゃうけど大丈夫ですよ!」

そう言える余裕を持ち、日々の乗り移りの実践にも生かせる事が、介護のプロと言われる第一歩になる。

【コラム】「○○○知恵袋」の質問コーナーより

『うちの施設の上司が、ポータブルトイレを患側に置けって言うんです。でも教科書では健側に置けって書いてあるし・・・。どちらが正解なんでしょうか。』

さて、この質問にきちんと答えられるだろうか。ヒントは、上で述べた「健側方向セッティングの問題点」と、次に紹介する「看護師国家試験問題」。頑張って解いてみよう。

第98回 看護師国家試験問題 問題3(一部変更)

<問題> 右片麻痺患者のベッドサイドにポータブルトイレを置く位置を図に示す。適切なのはどれか。

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国家試験の解答は「②」

看護師国家試験の解答を見ると、「健側方向へ移るため、②である」と述べられている。当施設の勉強会では、答えが②と③に分かれた。何故だろう。

「結局行きは健側方向だけど、帰りは反対の患側方向になるじゃない!」「②に置いたら移動バーが付けられないよね」「車椅子はどこに置くの?」など様々な意見が出た。まさに「机上の理論」と「現場の理論」。現場の経験がある人ほど、答えに悩むのかも知れない…。

私だったら、答えは③かな(細かな角度設定が必要だけど…)。

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理学療法士H
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