今日は「常識を疑え」シリーズの第4弾。介護の「常識」と呼ばれるものについて、ちょっと違った角度から論じてみたいと思う。テーマは「食事介助時の頭の位置」について。
驚くなかれ。我々は「上を向いて食事をしている時」があるのにお気付きだろうか。お暇があればご一読を…。
嚥下しやすい姿勢とは
嚥下しやすい食事姿勢は、頭頚部前屈位であるとされている。この姿勢は飲食物が気管に入りにくく、また食道方向へ通りやすくなるため、誤嚥が起こりにくいとされているのだ。
気道確保
下図は気道確保の方法を示している。下顎を挙上すると気道が広がり、肺への空気が通りやすくなる。(気道確保については、関連記事「常識を疑え7」をどうぞ)
図を90度回転させてみた。さて、この姿勢で食事介助したらどうなるだろう。
下顎が挙上して気道が広がり、口に入った飲食物は一気に肺へ流れ込みそうである。特に水分などを想像したらちょっと怖い気がする…。当然行なってはいけない食事姿勢として、教科書にも書かれている。
視点を変えてみると…
しかし、ちょっとここで視点を変えてみよう。次の写真を見て、皆さんはどう感じるだろう…。
(引用 ttp://gahag.net/006387-drinking-water-couple/)
(引用 ttp://gahag.net/002424-mother-baby-milk/)
これらの姿勢を想像できただろうか…。
我々は知らないうちに、このような上向き姿勢(後屈位)で飲んでいたのだ。それでは、どうしてこの姿勢でムセないのだろう。
奥舌を使う
図は口の中の模式図である。上向き姿勢で水を飲むとき、大切な役割を担っているのが「奥舌」と呼ばれる部分。その名の通り舌の奥の方を指すのだが、上向き姿勢では口の中の水は、重力で一気に気道の奥へ流れていく。それを奥舌が防いでくれているのだ。奥舌に力を入れたり緩めたりすることで、喉の奥へ流れる水分量とタイミングをコントロールしている。
奥舌の大切さが分かる「危険な実験」
この実験は、むせる確率が非常に高く、自信の無い人は絶対にやらないこと!
【実験】
①口の中に水を含む
②上を向く
③口を開ける
④上を向いて口を開けたまま、水を飲み込む
因みに、この飲み方の俗称は「インド飲み」。インドでは、ペットボトルの水を回し飲みする際の「衛生面」への配慮から、このような飲み方をすると言われている(諸説あり)。
そういえば、日本でも同じ飲み方をする人を見た事があったっけ。ラグビーの「魔法のやかんの水」は有名だ。ドラマ「スクールウォーズ」の中でも、そんなシーンがあったような気がする。また「ドリフ大爆笑」では、やかんの水を使ったコントが多数あった。因みに、私の一押しは「ドリフ大爆笑~もしも過酷な刑事の取り調べがあったら~」。いかりや長介さんの「奥舌コントロール」は絶品だったなぁ!
(引用;ドリフ大爆笑~もしも過酷な刑事の取り調べがあったら~)
奥舌コントロールの鍛え方
うがい訓練
うがいのメカニズムを考えてみよう。まず口の中に水を含む。上を向いて口を開けたら喉奥に水が流れてしまうので、奥舌でブロックしておく。どうやってブクブクするのかというと、まず鼻から吸った空気を肺に溜め込む。次に奥舌を緩めて空気を通す隙間を作ると同時に、肺に溜めた空気を一気に吐き出す。この空気を使ってブクブクするのだ。そして空気を止めると同時に、再度奥舌でブロック。一歩間違えれば、肺に水が流れ込んでしまうという、とてつもない危険な業を我々は行なっているのだ。もしかしたら、毎日のうがいが将来の誤嚥リスクを減らしてくれるかも知れない…?。
パタカラ体操の「カ」
パタカラ体操をご存知だろうか。このパタカラの「カ」は、「奥舌音」と呼ばれる発音形態。だから「カ行」の発音は、奥舌を働かせる。逆に「カキクケコ」がはっきり言えない人は、奥舌コントロールが出来ていない可能性がある。
常識を疑え
さて「なぜ食事は前屈位なのか」について考えてきたのだが、後屈位で水を飲んでいる自分の姿に、気づいていた人はいるだろうか。この点に気付いて、それを突き詰めて考えることは、新たな可能性を生み出す原動力になるはず。もう一度、介護の「常識」を見直してみよう。