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常識を疑え7 ~食事時の頭の位置は前屈位でなく軽度前屈位である理由~

投稿日:2017年6月29日 更新日:

常識を疑えシリーズは、早くも第7弾となりました。ここまで「介護の常識」と呼ばれているものについて、ちょっと違った切り口で論じてきました。

今回は「食事時の頭の位置」について考えてみましょう。キーワードは「前屈位」と「軽度前屈位」、この2つの言葉の違いについて考察してみたいと思います。些細な違いに感じるかもしれませんが、実は介護のセンスを問われる重要な視点なんですね。ご一読下さい。

 


 

■食事時の正しい頭の位置とは…?
まずは腕試しです。食事姿勢に関する看護師国家試験を解いてみましょう。

第90回看護師国家試験
<126問> 嚥下障害のある患者に嚥下反射を起こしやすくするための食事介助で適切なのはどれか。

1.頚部を前屈位にする
2.口に運ぶ1回の分量はなるべく少なくする
3.食物を舌の先端に置く
4.側臥位のときは舌の麻痺側を下にする

<答え>
1.頚部を前屈位にすると咽頭と気管に角度がつき、食塊が食道に流れ込みやすくなる

さて、皆さん正解出来ましたか。

更に見てみましょう。正しい食事姿勢について、介護福祉士の養成テキスト「生活支援技術Ⅱ」 には、以下のように書かれています。

『安定した座位を保ち、頭部がやや前傾した姿勢をとると、誤嚥しにくくなります』

(引用;生活支援技術Ⅱ-第3版-、中央法規、P205)

以上より、教科書で語られている「食事時の正しい頭の位置」は「前屈位」となります。

 

 

 

■なぜ「後屈位」ではダメなのか
それでは、なぜ頭を後ろに倒した「後屈位」は駄目なのでしょうか。以下の3点から説明してみましょう。

1.気道が開く
後屈位になると、舌が前方移動し、気道への通り道が広がります。すると必然的に、飲食物が肺に入り込むリスクが高くなるので、この姿勢は良くないとされています。


(参考;看護技術根拠のポイント -初版-、尾野敏明 著、GAKKEN)

 

 

 

2.嚥下反射が起こる前に飲食物が喉奥へ流れ込む
飲食物を食道へ送るためには「嚥下反射」が必要です。飲み込みの際、下図の通り反射が起きると、肺への入口がしっかりと塞がれ、ムセを回避する事が出来ます。
後屈位になると、嚥下反射が起こる前(肺への入口が塞がれる前)に飲食物が喉奥へと流れ落ちてしまう可能性があり、ムセのリスクとなるんですね。

 

 

 

3.口を閉じることが出来なくなる
後屈位になると、口が開いてしまい咀嚼しにくくなります。実際にやってみると分かり易いですかね。以下の実験を試してみましょう。

- 実験1-

①思いっきり上を向いてみましょう。

②もし口が開いてしまったら、口をしっかり閉じてみましょう。

口が閉じにくいことを実感できたでしょうか。実は頚の前側に位置する筋肉(前頚筋群)は、顎(あご)とつながっています。上を向くことで、この筋群が顎を下方向へ引っ張るんですね。これが「頭を後ろに倒すと口が閉じにくくなる」メカニズムとなります。

 

 

■過度の前屈位は逆効果!
ここまで述べてきたように、食事時の正しい頭の位置は「前屈位」であることが分かりました。しかし、ここで大きな落とし穴があります。実は「過度の前屈位」は、開口を困難にしてしまう可能性があるんです。

下図を見てみましょう。人間の顎の下には「隙間」があります。この隙間は何のために空いているのか考えたことがありますか。

 

様々な理由で神様が作られたのだと思いますが、その理由の一つは「口を開けるため」なんです。「顎関節」を支点として、弧を描くように顎が下方向へ動くんですね。

 

これを理解するため、もう一つ実験をしてみましょう。

- 実験2-

①正面を真っすぐ向いて、頭を動かさないようにし、その状態で口を開ける

②正面を真っすぐ向いて、頬杖を突いて顎を下からしっかり固定し、その状態で口を開ける

顎を固定する(②)と、口が開かないことを実感できたでしょうか。顎が下方向に動く根拠になると思います。以上より、「顎下の隙間は口を開ける為のスペース」だったという事がお分かり頂けたでしょうか。

 

■どのような弊害が起こるのか
それでは、いよいよ本題です。下図の様な「過度の前屈位」を呈していた場合、どのような弊害が起こるのか想像してみましょう。

 

もうお分かりですね。過度の前屈位では顎が前胸部に当たってしまい、開口が困難となります。つまり、この姿勢で食事介助をしても、解剖学・運動学的に「口を開く事が出来ない」ことを理解しましょう。

 

 

 

さて、最初に示した教科書「生活支援技術Ⅱ」の記載を、もう一度読んでみます。

『安定した座位を保ち、頭部がやや前傾した姿勢をとると、誤嚥しにくくなります』

この「やや」という言葉がミソなんですね♪

 

 

■常識を疑え
教科書に書かれていることを「忠実に」実践することは、身体の回復を目指す為にも、また安全を確保する上でも大切なことです。しかし実際の場面では、教科書通りにいかない事も沢山ありますよね。
今回は、細かい文言に注目してみました。「前屈位」と「軽度前屈位」です。ほんの些細な違いに感じるかも知れませんが、この違いに気付けない人は、介護技術がどんどん雑になっていく可能性があります。行間に込められた意味を、しっかりと理解する事が大切なんですね。

 


 

<おまけ ~洋式トイレの足元はなぜ窪んでいるのか~>

隙間つながりで豆知識。トイレの「足を引くための隙間」も、同じような発想なのかも知れません。


(関連記事;理学療法士H監修の「老化度判定表」

足を引くことの可否については、「常識を疑え1 ~立ち上がりの時は足を引かなくちゃ駄目なのか~」で考察しています。以下のリンクをご参照下さい。


 

 

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