介護技術の骨シリーズ

介護技術の骨(コツ) ~重心移動を意識して生活リハビリに繋げよ~

2017年8月3日

 

「良い方の足なんだから、自分で動かして下さい!」
移乗介助の時に、こんな言葉が聞こえてくる事がある。実は、介護技術が上達するためのポイントの一つに「重心移動」という視点があるのだ。今回は、3つの実技を交えながら考えてみたいと思う。

 

実技

早速だが、以下の実験を試してみよう。

<実験1>
①背中を壁にピッタリと着ける
②そのまま深くお辞儀をする

壁に背中をピッタリ着けてお辞儀をする

 

<実験2>
右半身を壁にピッタリ着ける
②そのまま左足を持ち上げる

右半身を壁に着けたまま左足を持ち上げる

 

 

お辞儀が出来ない理由(実験1)

実験1において、なぜお辞儀が出来なかったのだろうか。

下図は、人体を横から見た模式図である。直立姿勢では、頭は骨盤の延長線上に位置しており、安定した立位を保つことが出来ている。しかし、お辞儀をするとどうなるか。重い頭が前方へ移動する為、バランスを崩し倒れてしまう。

この崩れたバランスを修正する為に「重心移動」が必要となるのだ。骨盤を後ろへ移動させることで、立位姿勢の均衡を保とうとする。言い換えれば「足裏を支点とした頭と骨盤のやじろべえ」とでも言えるだろうか。

 

さて、もうお分かり頂けただろう。背中を壁にピッタリ着けると、骨盤を後ろへ移動させることが出来ない。これが「壁があるとお辞儀をすることが難しい」理由となる。

 

 

片足立ちが出来ない理由(実験2)

実験2において、片足立ちが出来なかったのは何故なのか考えてみよう。

下図は、人体を正面から見た模式図である。左足を持ち上げると、地面と接する支持基底面が右へ偏位し、バランスが崩れて倒れる。

これを防ぐため、骨盤を横へ移動させ、若しくは頭を横に移動させ、立位姿勢の均衡を保とうとするのだ。

しかし、右半身を壁にピッタリ着けると、骨盤や頭を横へ移動させることが出来ない。これが「壁があると片足を持ち上げるのが難しい」理由となる。

 

 

人が動く時には「重心移動」を伴う

さて2つの実験を通して、どのように感じただろうか。実は、人が動く時には「重心移動」というバランス反応が起こる。例えば「歩行動作」。左足を振り出す際には重心を「右」へ、逆に右足を振り出す際には重心を「左」へ移動する。片足でバランスが取れる位置近くまで重心移動しないと、反対の足を振り出すことが出来ないのだ。

歩行の際の重心移動のイラスト

以上、「人が動く時には重心移動を伴う」ことを理解しよう。

 

 

重心移動の具体例

介護場面において、この「重心移動」はどのように使われているのだろうか。具体例を提示してみたい。

(1)立ち上がり動作

次の実験は有名だ。確か、理学療法士の「三好春樹」さんが先駆けだったような気がするのだが…。

<実験3>
①被検者は、姿勢を正して椅子に座る
②検者は、指を一本立てて相手のおでこに当てる
③被検者は、そのまま立ちあがる

指一本で立てなくする実験

立ち上がる際には、必ず「前屈み」動作を伴わなくてはならない。

頭と骨盤の均衡が取れる位置まで屈まないと、お尻が持ち上がって来ないのだ。

頭と骨盤の均衡がとれてから立上る

 

(2)移乗動作

下図は、ベッドへ移乗する際に立ち上がったところである。右足を一歩前に出して方向転換をしようとするのだが、なかなか右足が動かない。「ほら、右足を出して。右は良い方の足なんだから動くでしょ!」という介護士さんの声が聞こえ来る…。

実はここでも「重心移動」が重要な役割を果たしている。右足を動かすためには、左への重心移動が必要。麻痺等の影響で左足への荷重が困難な場合、右足を動かすことは利用者にとって大変な労力になる事を理解しよう。

 

(3)歩行介助

歩行介助にも「重心移動」が用いられている。例えば下図のように、振り出す足がになってしまうと、利用者様が大変歩きにくくなってしまうのが分かるだろうか。

同じ方の足を出さないと歩きにくい歩行介助2    

 

歩行介助の基本は、相手の歩幅に合わせて「同じ側の足を出す」ことが必要なのである。

    

 

 

生活リハビリを行なうための介護技術

我々は無意識のうちに、様々な場面で「重心移動」と関わっていた事が分かる。しかし病気や怪我などで障害を負ってしまうと、今まで自然に出来ていた「重心移動」が出来なくなってしまう。さて、これを再獲得させるにはどうしたら良いだろう。

実は「重心移動」という視点を持って介護をするだけで、相手の本来の動きを引き出し、動作を再獲得させる可能性が広がるのだ。介護の場面で行なう「生活リハビリ」技術を駆使して、利用者様の動作能力向上を目指そう。