【常識を疑え2】なぜ良いほうの足(健側)なのに動かせないのか?「患側への重心移動」という落とし穴

導入:動かない健側(良い方の足)の謎

ハル:「広田先生! 車椅子からベッドに移乗する時、Dさんが全然足を動かしてくれないんです。右足(健側)は麻痺してないんだから、自分で一歩踏み出せばいいのに、床に張り付いたみたいに固まっちゃって……。リハビリの意欲が落ちてるんでしょうか?」 

広田:「(骨格模型の重心を指でつつきながら)……ハルちゃん。Dさんの意欲の問題じゃない。君のその『良い方の足なんだから動かして』という声掛けは、身体の力学に照らせば『空中で足を振れ』と命じているに等しい無理難題だ」 

ハル:「えっ? 無理難題って、どういう……?」 

広田:「健側(良い方の足)を自由に動かすための鍵は、健側そのものにはない。背後でうごめく『重心移動』のバグを解明するぞ。ノートを開け」


解説:脳のバランス制御と「重心」の絶対法則

介護現場で最も多く飛び交う「良い方の足なんだから、自分で出して!」という指示。 実はこの時、利用者の脳内では「足を動かしたい」という意志よりも、「倒れたくない」という防衛本能が物理的に勝っている状態にある。

良い方の足を動かすためには、何が必要か。誰でもその場で体感できる2つの実験を通して、動作を支配する「重心移動」の正体をハックする。

1.肉体による証明(バランス制御の強制終了)

人間の身体は、重心(骨盤・頭)を移動させることでバランスを保つ「やじろべえ」である。

実験1:壁に背中をつけてお辞儀

①背中を壁にピッタリと着ける
②そのまま深くお辞儀をする

壁に背中をピッタリ着けてお辞儀をする

実験2:壁際での片足立ち 

右半身を壁にピッタリ着ける
②そのまま左足を持ち上げる

右半身を壁に着けたまま左足を持ち上げる

2.お辞儀が出来ない理由(実験1)

実験1において、なぜお辞儀が出来なかったのだろうか。下図は、人体を横から見た模式図である。直立姿勢では、頭は骨盤の延長線上に位置しており、安定した立位を保つことが出来ている。しかし、お辞儀をするとどうなるか。重い頭が前方へ移動する為、バランスを崩し倒れてしまう。

この崩れたバランスを修正する為に、「重心移動」が必要となるのだ。骨盤を後ろへ移動させることで、立位姿勢の均衡を保とうとする。言い換えれば、「足裏を支点とした頭と骨盤のやじろべえ」とでも言えるだろうか。

さて、もうお分かり頂けただろう。背中を壁にピッタリ着けると、骨盤を後ろへ移動させることが出来ない。これが「壁があるとお辞儀をすることが難しい」理由となる。

3.片足立ちが出来ない理由(実験2)

実験2において、片足立ちが出来なかったのは何故なのか考えてみよう。下図は、人体を正面から見た模式図である。左足を持ち上げると、地面と接する支持基底面が右へ偏位し、バランスが崩れて倒れる。

これを防ぐため、骨盤を横へ移動させ、若しくは頭を横に移動させ、立位姿勢の均衡を保とうとするのだ。

しかし、右半身を壁にピッタリ着けると、骨盤や頭を横へ移動させることが出来ない。これが「壁があると片足を持ち上げるのが難しい」理由となる。

4.人が動く時には「重心移動」を伴う

さて2つの実験を通して、どのように感じただろうか。実は、人が動く時には「重心移動」というバランス調整が起こる。例えば「歩行動作」。左足を振り出す際には重心を「右」へ、右足を振り出す際には重心を「左」へ移動する。片足でバランスが取れる位置近くまで重心移動しないと、反対の足を振り出すことが出来ないのだ。

歩行の際の重心移動のイラスト

良いほうの足なのに動かせないのは何故か?

さて、もうお分かりだろう。この質問の答えは「患側(悪い方)で身体を支えられないから」である。下図は、ベッドへ移乗する際に、立ち上がったところである。右足を一歩前に出して方向転換をしようとするが、なかなか右足が動かない。「ほら、右足を出して。右は良い方の足なんだから動くでしょ!」という介護士さんの声が聞こえて来る…。


実はここで「重心移動」が重要な役割を果たしている。右足(健側)を動かすためには、左(患側)への重心移動が必要だ。麻痺等の影響で患側への荷重が困難な場合、健側を動かすことは利用者にとっては、大変な労力になる事を理解しよう。

その他、重心移動の具体例

(1)立ち上がり動作

<実験3>
①被検者は、姿勢を正して椅子に座る
②検者は、指を一本立てて相手のおでこに当てる
③被検者は、そのまま立ちあがる

指一本で立てなくする実験

立ち上がる際には、必ず「前屈み」動作を伴わなくてはならない。頭と骨盤の均衡が取れる位置まで屈まないと、お尻が持ち上がって来ないのだ。

頭と骨盤の均衡がとれてから立上る

(2)歩行介助

歩行介助にも「重心移動」が用いられている。例えば下図のように、振り出す足が逆になってしまうと、ぶつかって歩きにくくなるのが分かるだろう。

同じ方の足を出さないと歩きにくい歩行介助2

歩行介助の基本は、相手の歩幅に合わせて「同じ側の足を出す」ことが必要なのである。


【結び:ハルの暴走】

ハル:「……! つまり、Dさんが右足を出せなかったのは、私が『左足(患側)に体重を乗せられる環境』を作っていなかったからなんですね!」 

広田:「ああ。良い方の足は、悪い方の足が『アンカー(支点)』として機能して初めて動く。それが物理だ」 

ハル:「分かりました! じゃあ私がDさんの左足(患側)を膝カックンしないようにガッチリとホールドして、無理やり左側に体重を押し込めば、右足が出ますね!!」

広田:「……力で解決しようとするな。患側に体重を乗せられないなら、外部の環境で『支点(アンカー)』を補うしかない。……おい北条、出番だぞ。お前の100均デバイスで、この脳筋新人をどうにかしてやってくれ」

【10の裏カルテ】介護業界10のタブー

  ~ナースコール隠し、性の抑圧、寝たきりの存在意義~

理学療法士H
理学療法士。典型的なB型気質、一匹狼で徒党を組むのが大嫌い。他人の悩みや相談事を自分の事のように取り込んでしまい、体調が悪くなるのが欠点。趣味は、この世の人間関係の仕組みを解明すること。
当ホームページは、リハビリ脳を鍛えるためのサイトである。「リハビリ脳=日々の生活をリハビリ的視点で捉える事」と定義している。身体機能のリハビリのみならず、揺れ動く心のリハビリにも焦点を当てて考察している。
キネシオロジーと波動療法の専門店「こころのて整体院」を運営し、心と身体の癒しの場を提供している。
こころのて整体院
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