リハビリの現場や介護の解説書で、必ず耳にする「患側(かんそく)」という言葉。
一般的には、病気やケガの影響を受けている側、つまり「麻痺がある側」や「痛みがある側」を指すが、多くの患者さんが無意識のうちに次のような考えに陥ってしまう。
「患側が動かないから、自分は動けない。だから身の回りのことは家族にやってもらって、自分は麻痺を治すためのリハビリ(機能訓練)だけを頑張ればいい。
一見、前向きな努力に見えるが、実はこれこそが「生活の再建」を阻む大きな罠なのである。
「機能回復」という罠から抜け出す
「手が動くようになったら料理をする」「足が動くようになったら自分で着替える」。そう願ってひたすら機能訓練を追い続ける。しかし、生活は待ってくれない。
介助されることに慣れてしまい、生活動作(着替え、靴下、料理、洗濯など)を練習しなくなると、たとえわずかに麻痺が回復しても、その動かし方を脳は忘れてしまう。
リハビリ脳の視点に立てば、患側は「治るのを待つお荷物」ではない。今の機能のままでも、「今の生活を支えるためのパーツ」として使い倒すべき存在なのだ。
動かないからこそできる、患側の「3つの大役」
麻痺側が生活上で役に立つのは、何も「自力で動く」ことだけではない。動かないという特性を活かした、3つの重要な役割を紹介する。
- 「重し」としての役割;
例えば洗濯物を干したり畳んだりする際、患側の腕を「重し」として洗濯物の上に乗せてみる。それだけで布が固定され、健側の片手だけでスムーズに作業が進むようになる。これは、動かない腕だからこそできる立派な「仕事」である。

- 「前腕支持」で身体を安定させる役割;
例えば、車椅子の肘置きや食事の際のテーブル上に、患側の前腕を置く。たったこれだけで、体幹のバランスは劇的に安定する。患側が「支え」になることで、健側はより繊細で自由な動きが可能になるのだ。

- 「健側の足を動かすため」の支持;
良い方の足(健側)を動かすためには、体重移動に伴い、悪い方の足(患側)に体重を乗せる必要がある。健側の足を一歩前に出すためには、皮肉にも「患側」でしっかりと地面を感じ、支えることが必要なのだ。

麻痺の機能を「無視」しても、出来ることは増やせる
「麻痺が治らなければ、靴下は履けない」…
そう思い込んでいるなら、今すぐその視点を捨ててほしい。麻痺側の機能は今のままでも、「自助具」という外部デバイスを使えば、出来ることは明日からでも増やせる。
- ソックスエイド;
「足に手が届かない」という物理的な壁を、ダイソーの素材で解決する。

- ボタンエイド;
指先の細かな動きを道具に任せ、片手でボタンを留める達成感を取り戻す。

- 片手用まな板;
食材を「固定」する役割を、釘やフォークの先端などに任せれば、片手で料理を再開できる。

まとめ
麻痺の回復(機能訓練)を追い求めることは間違いではない。しかし、それが「生活をしない理由」になってはいけない。
極論をいえば、患側は動かなくていい。その代わりに、重しになり、支柱になり、道具と手を取り合う。
「治ったらやる」を卒業し、「今の身体で、どうやって生きるか」を考え始めたとき、あなたのリハビリ脳は真の意味で覚醒する。
今日から、患側に新しい「仕事」を与えてみてはどうだろうか。