第1章:吹雪の中で床の感触が消える|接地(グラウンディング)の再獲得

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介護施設の夜明けは早い。ナースコールが鳴り響き、足早に廊下を駆け抜ける。その瞬間から、あなたの視界には「薄い霧」が掛かり始める。

最初の1人、2人までは、まだ「顔」が見えていた。「おはようございます、○○さん。良く眠れましたか?」。交わされる言葉には、相手に対する敬意と、「自分自身」という輪郭が宿っていた。

しかし、3人目、4人目と介助を重ねるうちに、霧は濃くなり、視界は急激に白く濁っていく。

重さだけが押し寄せる「ホワイトアウト」の正体

気が付けば、そこにいるのは「○○さん」ではない。「次に移乗させるべき60㎏の肉体」であり、「処理を待つ排泄物」であり、遅延なく進めなければならない「業務」という名の巨大な氷塊だ。

これが、現場で起きる「ホワイトアウト」の正体である。

ホワイトアウトした吹雪の中で、方向感覚を失う登山家のように、あなたもまた、情報の氾濫と肉体の疲労によって、目の前の人間を人間として認識する機能を一時的に失う。脳は、過酷な現実から自分を守るために、あえて感覚を遮断し、世界をモノトーンに塗り潰すのだ。

記号化される身体、失われる境界線

白く濁ったこの世界では、すべてが記号化される。

  • 車椅子へ移すという行為は、ただの「荷物の積み替え」になる。
  • 食事を口に運ぶ行為は、ただの「エネルギーの補充」になる。
  • 更衣の介助は、ただの「布の巻き直し」になる。

そこには、相手の皮膚の柔らかさも、わずかな吐息も、瞳の奥にある寂しさも映らない。何より恐ろしいのは、相手が「モノ」に見えるとき、自分自身もまた、ただの「動く肉の塊」に成り下がっていることだ。

自分の足が床をどう踏んでいるいるのか。自分の呼吸が、どれほど浅く止まっているのか。自分の手が、どれほど無慈悲な強さで相手の腕をつかんでいるのか。

ホワイトアウトの吹雪の中では、自分と相手の境界が溶け落ち、感覚が麻痺していく。あなたは、自ら身体の輪郭を失わせ、「動く肉の塊」と化することで、かろうじてその場に立ち続けているのである。

感覚の死から、生還するために

しかし、この「感覚の死」が、すべての痛みと、すべての燃え尽きの始まりであることに、あなたはまだ気付いていない。

自分の身体を「動く肉の塊」として扱い、相手を「重たいお荷物」として動かそうとするとき、そこには対話のない物理的な衝突だけが残る。その衝突の火花が、あなたの身体を焼き、心を削っていく。

この白い闇を抜けるには、強靭な精神力も、最新の介護ロボットも必要ない。ただ、消えかかった自らの「皮膚の感覚」を、もう一度だけ、静かに手繰り寄せる勇気が必要なのだ。

(続く…第2章へ)

【9つの物語】身体感覚のホワイトアウト|過酷な介護現場で肉体を壊さずに生き抜く技術

理学療法士H
理学療法士。典型的なB型気質、一匹狼で徒党を組むのが大嫌い。他人の悩みや相談事を自分の事のように取り込んでしまい、体調が悪くなるのが欠点。趣味は、この世の人間関係の仕組みを解明すること。
当ホームページは、リハビリ脳を鍛えるためのサイトである。「リハビリ脳=日々の生活をリハビリ的視点で捉える事」と定義している。身体機能のリハビリのみならず、揺れ動く心のリハビリにも焦点を当てて考察している。
キネシオロジーと波動療法の専門店「こころのて整体院」を運営し、心と身体の癒しの場を提供している。
こころのて整体院
自立神経専門
管理者が運営する「心と身体の流れを整える」整体院です。病院では異常がないと言われた体調不良や、慢性的な疲れ、人間関係のストレスなど、心と身体のバランスが崩れることで起こる不調のご相談を多くいただいています。
当院ではキネシオロジーを用いて無意識の影響を確認し、波動療法で身体の状態を整えながら、占術(九星気学×易経)などの助言を得ることで、これからの人生の選択についてもサポートしています。
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