【シーズン Ver.2.1】記憶_04|逆流×回想法

昭和への退避と、セーフモードによるシステム防衛

「彼らは過去を懐かしんでいるのではない。エラーと矛盾に満ちた『現在』という実行環境の負荷に耐えかねたとき、最も安定稼働していた過去のセーブデータを用いて、己のシステムを『セーフモード(安全地帯)』で再起動しているのだ」

「昔はね、この辺りも全部畑でね」「あの頃は本当に苦労したんだよ」 デイサービスのテーブルに古い手回しミシンや白黒写真が置かれると、先程までうつろな目をしていた彼らが、突然生き生きと語り始める。

介護業界では、これを「回想法」と呼んで重宝する。過去を振り返ることで脳が活性化し、情緒が安定するという美しいロジックだ。スタッフは彼らの笑顔を見て、「昔話をしてくれて良かった」と満足げに頷き合う。

だが、システムの構造として見れば、ここで起きている現象は「美しい思い出の共有」などというロマンチックなものではない。

彼らにとって、「現在」とはどのような空間か。 鏡に映る自分の顔は見知らぬ老人に変わり、娘だと名乗る初老の女は自分の記憶にある「幼い娘」のデータと全く一致しない。空間の座標も、時間の連続性も、すべてがエラーコードを吐き出している。 彼らは毎日、この理解不能で恐ろしい「現在」というバグだらけの実行環境で、パニックを起こしかけているのだ。

彼らが昭和の記憶を饒舌に語るとき、その脳は一時的に「現在」との通信を遮断している。 エラーが一切存在しなかったあの頃のOS(人格)を再起動することで、彼らは「今、ここにある自分」という修復不能なバグから身を守り、過去という強固な安全地帯(セーフモード)へと避難しているのだ。 回想法とは、美しい幻想ではない。エラーだらけの現在から彼らを一時的に切り離し、システムを最も安定稼働させるための、極めて実用的なハッキング技術である。

観測者は、古い歌謡曲に合わせて手拍子を打つ彼らの姿を、無表情のまま見つめている。

「昔は良かったですね」と相槌を打つスタッフの隣で、観測者はこの平和な光景の裏にある切実な事実を噛み締めている。彼らが過去で微笑んでいるということは、彼らのシステムが今日を生き抜くために、現在を一時的にスリープさせなければならなかったという証明なのだ。

昔の道具を取り出し、彼らの笑顔を引き出したところで、その意識を「今日」という座標に完全に繋ぎ止めることはできない。 観測者にできるのは、過負荷に陥った彼らのシステムが、過去という安全地帯の中で安らかなスリープモードに入るのを、ただ黙って見守ることだけだ。 エラーに満ちた現実に疲弊した彼らの時間は、今日も安全な「昭和」のセーブデータへと、静かに逆流していく。

【10の裏カルテ】介護業界10のタブー

  ~ナースコール隠し、性の抑圧、寝たきりの存在意義~

理学療法士H
理学療法士。典型的なB型気質、一匹狼で徒党を組むのが大嫌い。他人の悩みや相談事を自分の事のように取り込んでしまい、体調が悪くなるのが欠点。趣味は、この世の人間関係の仕組みを解明すること。
当ホームページは、リハビリ脳を鍛えるためのサイトである。「リハビリ脳=日々の生活をリハビリ的視点で捉える事」と定義している。身体機能のリハビリのみならず、揺れ動く心のリハビリにも焦点を当てて考察している。
キネシオロジーと波動療法の専門店「こころのて整体院」を運営し、心と身体の癒しの場を提供している。
こころのて整体院
キネシオロジーと波動療法
管理者が運営する「心と身体の流れを整える」整体院です。病院では異常がないと言われた体調不良や、慢性的な疲れ、人間関係のストレスなど、心と身体のバランスが崩れることで起こる不調のご相談を多くいただいています。
当院ではキネシオロジーを用いて無意識の影響を確認し、波動療法で身体の状態を整えながら、占術(九星気学×易経)などの助言を得ることで、これからの人生の選択についてもサポートしています。
会社やママ友関係、夫婦関係などのストレス、原因がはっきりしない不調などもお気軽にご相談ください。
  • URLをコピーしました!