【シーズン Ver.2.1】記憶_02|停止×待つこと

フリーズした未来と、永遠のローディング画面

「帰るべき『家』の座標がシステムから消失したとき、未来へと向かうはずの時間は『待つ』という一点において完全にフリーズする。彼らは迷子になっているのではない。永遠に終わらない待機画面の中で、ただ立ち尽くしているのだ」

夕暮れの玄関、あるいは施設のデイルームの片隅。 小さなカバンや、荷物をまとめた風呂敷を膝に抱え、彼らはただじっとドアを見つめている。「そろそろ帰ります」「お迎えが来る時間だから」と。

介護の現場において、これは「帰宅願望」という名前で処理される。 家族やスタッフは「ここがあなたの家ですよ」「今日はもう遅いから、明日帰りましょう」と、現実の座標や時間のルールを教え込もうと躍起になる。しかし、それはOSがクラッシュしているパソコンのキーボードを、力の限り叩き続けるような無意味な行為だ。

彼らの脳内(ソフトウェア)では、「ここは自分の居場所ではない」という強烈な違和感だけが、システムアラートとして鳴り響いている。だからこそ、「本来の場所へ帰る」というコマンドが実行される。

だが、残酷なことに、肝心の「帰るべき家」のデータは、すでに破損し、アクセス不能に陥っている。 目的地のデータ(座標)が空欄のまま、移動のコマンドだけが実行され続ける。その結果、矛盾を起こしたシステムが行き着くのは、「誰かが迎えに来て、自分を正しい場所へ連れて行ってくれるのを待つ」という、無限の待機状態(フリーズ)である。

人間の時間は通常、未来の目的へと向かって流れていく。 しかし彼らの時間は、帰る場所を失った瞬間に進行を止め、「待つ」という行動のループの中で完全に凍りついてしまう。迎えが来ないから待つ。待てど暮らせど来ないから、さらに待つ。それは、パーセンテージが永遠に100にならない、絶望的なローディング画面と同じだ。

観測者は、固く握りしめられた小さなカバンと、ドアを見つめるその背中をただ見下ろしている。

「ここはあなたの家だ」という冷酷なデバッグ(現実の突きつけ)は行わない。かといって、「すぐお迎えが来ますよ」という安っぽい嘘で、その場を誤魔化すこともしない。 ただ、パイプ椅子を引き寄せ、「お茶でも飲んで待ちましょうか」と、そのフリーズした時間の隣に静かに腰を下ろす。

失われた家の座標を再構築する術など、観測者は持っていない。 未来へのベクトルを失ったソフトウェアは、今日も同じ夕暮れのドアの前で、終わることのない待機状態を続けている。

【10の裏カルテ】介護業界10のタブー

  ~ナースコール隠し、性の抑圧、寝たきりの存在意義~

理学療法士H
理学療法士。典型的なB型気質、一匹狼で徒党を組むのが大嫌い。他人の悩みや相談事を自分の事のように取り込んでしまい、体調が悪くなるのが欠点。趣味は、この世の人間関係の仕組みを解明すること。
当ホームページは、リハビリ脳を鍛えるためのサイトである。「リハビリ脳=日々の生活をリハビリ的視点で捉える事」と定義している。身体機能のリハビリのみならず、揺れ動く心のリハビリにも焦点を当てて考察している。
キネシオロジーと波動療法の専門店「こころのて整体院」を運営し、心と身体の癒しの場を提供している。
こころのて整体院
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