【訪問リハから介護を解剖する 09】一歩先の不協和音|「今」を回す善意が、未来の可能性を握りつぶす

冒頭の漫画で描いたように、「一歩先」を読んで行動することは、時にコミカルな空回りを生むが、対人援助においては極めて重要な技術(観察力やラポール形成の武器)となる。

だが、こと介護の最前線において、この「一歩先を見ようとする人間」は、往々にして煙たがれる存在となる。周囲が「今、目の前の火を消すこと」に必死な中、一人だけ「その性急な消火活動が、あとで取り返しのつかない大火事を招きますよ」と予言するからだ。

その指摘は常に正しい。しかし、その正しさは現場の「空気を乱すノイズ」として処理されてしまうのである。

効率という名の「劇薬」

現場で重宝されるのは、いつだって「手の速い人」だ。コールを高速で取り、介助を爆速で終え、記録を完璧に埋める。彼らは一見、現場を救っているヒーローに見えるだろう。

だが、理学療法士の視点でその「速さ」を解剖すると、恐ろしい事実が浮かび上がる。その速さは、利用者の「未来の機能」を削り取ることで成立している劇薬なのだ。

  • 速い移乗:
    利用者が自分の足で踏ん張る「間(タイミング)」を奪う。
  • 速い着脱:
    利用者が指先を動かす「リハビリの機会」を奪う。
  • 速い解決:
    利用者が自分で考え、試行錯誤する「尊厳」を奪う。

本人は善意で、組織のために動いているつもりだろう。しかし、その効率的な動きこそが、利用者を「動けない身体」へと作り替えていく。

「優しい虐待」という構造

介護職の根底にあるのは、純粋な「優しさ」だ。目の前で苦労している人がいれば、つい手を貸してしまう。危なっかしい動きを見れば、転ぶ前に先回りして止めてしまう。

だが、その優しさは時に残酷な機能不全を生む。本当は自分の足で立てたかも知れない。本当は一歩踏み出せたかも知れない。その「小さな成功の芽」を、優しさという名の巨大なハサミで摘み取ってしまうのだ。

これを私は、あえて「優しい虐待」と呼びたい。身体に傷は残らない。しかし、その人の「生きる力」を確実に、そして静かに殺していくからだ。

一歩先とは、「奪わない勇気」のこと

プロにとって「一歩先を見る」とは、何か特別な介助を付け加えることではない。むしろ、「あえて何もしない」という高度な選択をすることだ。

転びそうに見えるギリギリのラインで、手を出さずに見守る。時間がかかっても、本人の手が動くのをじっと待つ。失敗することを知りながら、あえて経験させる。

これは、介助する側にとっても一種の「苦行」である。時間はかかるし、リスクも伴う。何より周囲から「あの人は仕事が遅い」と責められるかもしれない。だが、その「待つ勇気」だけが、利用者の未来に「自立」という光を残すことが出来るのだ。

あなたは「破壊者」か、「創造者」か

綺麗ごとを言うつもりはない。多忙を極める現場で、100%「奪わない介護」を貫くのは不可能だ。私たちもまた、どこかで「今」を回すために未来を壊している。

大切なのは、「自分が今、壊している側である」という自覚を持っているかどうかだ。

「この速い介助は、この人の1か月後を動けなくしていないか?」「私のこの優しさは、この人のプライドを傷つけていないか?」

この問いを脳内に住まわせた瞬間、あなたの介助は「ただの作業」から、未来の身体をデザインする「リハビリ脳」へと進化する。

結び:孤独な予言者であれ

一歩先を見て動くあなたは、これからも現場では「やりにくい人」だと思われるかも知れない。しかし、利用者が1か月後、1年後に「自分の足で立ち上がった」とき、その軌跡の種をまいたのは、あのとき周囲に流されず「待つ」ことを選んだあなたなのだ。

「今」に迎合するな。未来を見据える孤独な予言者として、一歩先の景色を観測し続けよう。

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理学療法士H
理学療法士。典型的なB型気質、一匹狼で徒党を組むのが大嫌い。他人の悩みや相談事を自分の事のように取り込んでしまい、体調が悪くなるのが欠点。趣味は、この世の人間関係の仕組みを解明すること。
当ホームページは、リハビリ脳を鍛えるためのサイトである。「リハビリ脳=日々の生活をリハビリ的視点で捉える事」と定義している。身体機能のリハビリのみならず、揺れ動く心のリハビリにも焦点を当てて考察している。
キネシオロジーと波動療法の専門店「こころのて整体院」を運営し、心と身体の癒しの場を提供している。
こころのて整体院
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