【訪問リハから介護を解剖する 10】常識の鎖を解く|価値観が溶け出す瞬間の「心地よさ」について

四点歩行器という歩行補助具があるが、それを使わない利用者がいるので紹介しよう
丸椅子を歩行器代わりに使う人
洗濯カゴを歩行器代わりに使う人
訪問サービスでは想定外の事が起こり凝り固まった価値観が溶かされていく

丸椅子や洗濯カゴ、果ては孫のおもちゃの押し車まで。

冒頭の漫画で描いたように、訪問リハビリの現場に出ると、利用者が独自に編み出した「サバイバル術」に驚かされることが多々ある。

教科書的に見れば、これらは転倒リスクの高い「不適切な行為」であり、ただちに安全な四点歩行器へと修正指導すべき対象だ。病院勤務時代の私であれば、間違いなくそうしていただろう。

しかし、彼女たちの小さな家屋や、極度に曲がった背中(円背)といった現実を前にすると、その「非常識な道具」こそが見事なまでの最適解であったりする。

介護や医療の現場に立つ私たちは、知らず知らずのうちに重い鎧(よろい)をまとっている。それは「こうあるべきだ」「これが正しい」という、世間一般や教科書が作り上げた「常識」という名の鎧だ。

しかし、その鎧こそが、あなたの心を無駄に締め付け、現場で疲弊させている最大の正体かも知れない。

「常識」という名の、古びた地図を捨てる

常識を疑え。
この言葉は、単なる反抗ではない。在宅現場で起きる現実は、常に教科書の数歩先を行っているからだ。

「認知症の方に、論理的な説明が通用しない」「リハビリを拒否する人に、機能回復の重要性を説いても響かない」。

ここで「なぜ正しいことを言っているのに分かってくれないのか」と憤るのは、あなたが「常識」という古びた地図を信じ切っているからだ。一度、その地図を破り捨ててみてほしい。

「正しくないといけない」という執着を手放したとき、初めて目の前の相手の「生(なま)の姿」が見えてくる。

価値観が溶けていく、その「心地よさ」

自分を縛っていた「常識というものさし」を捨てたとき、奇妙な感覚が訪れる。それまで「問題行動」だと思って必死に正そうとしていたことが、ただの自然な「現象」に見えてくる。「失礼な態度だ」と腹を立てていたことが、ただの「脳のバグ(症状)」だと俯瞰できるようになる。

境界線が溶けていくのだ。管理する側とされる側。正しい人と、正しくない人。そんな二分法が消え、「まあ、このままでもいいじゃないか」という静かな肯定感が心を満たしていく。この「価値観のメルトダウン」こそが、過酷な現場で私たちが辿り着く、一つの聖域(サンクチュアリ)である。

生存戦略:不完全な自分を、面白がる

常識を疑うことは、相手だけでなく「自分を許すこと」でもある。

「今日は完璧な介助が出来なかった」「理不尽な態度に、少しイライラしてしまった」。

そんな自分を「専門職たるもの、こうあるべきだ」という鋭い刃で裁くのを、もうやめてみよう。

「今日の私は、少し人間味が溢れていたな」「こんな予定不調和な展開も、ドラマとしては面白いじゃないか」

そんな風に、不完全な状況を一段高いところから「面白がる」視点を持つこと。それが、感情の荒波に飲み込まれず、自分という「灯火」を絶やさないための、最も懸命な振る舞いなのだ。

結び:透明な心で、現場に立つ

常識を疑い、価値観を溶かした後に残るのは、空っぽの自分ではない。どんな変化も受け流し、どんな相手もそのまま受け入れる。しなやかで透明な「あなた」だ。

「正しさ」という武器を置き、ただそこに在る。そのとき、あなたの放つ凪(なぎ)の空気は、利用者にとっての、そしてあなた自身にとっての、最高の「救い」に変わる。

価値観が溶けていく心地よさを、恐れずに味わってほしい。その先にあるのは、もう誰にも、何にも縛られない、自由なあなたの始まりなのだ。

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理学療法士H
理学療法士。典型的なB型気質、一匹狼で徒党を組むのが大嫌い。他人の悩みや相談事を自分の事のように取り込んでしまい、体調が悪くなるのが欠点。趣味は、この世の人間関係の仕組みを解明すること。
当ホームページは、リハビリ脳を鍛えるためのサイトである。「リハビリ脳=日々の生活をリハビリ的視点で捉える事」と定義している。身体機能のリハビリのみならず、揺れ動く心のリハビリにも焦点を当てて考察している。
キネシオロジーと波動療法の専門店「こころのて整体院」を運営し、心と身体の癒しの場を提供している。
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