認知症の人はどこに帰ろうとしているのか

「家に帰りたい」

その言葉は、今日も同じ場所に落ちる。

ここが施設であることは、
誰もが分かっている。

職員も、利用者も。
たぶん、その人自身も。

それでも、その言葉は出てくる。

忙しさの中で受け取るその一言は、
少しだけ重い。

手は止められない。
業務は流れていく。

でも、あの言葉だけが、
どこにも片付かないまま残る。

「もう少ししたらね」
「落ち着いたら一緒に考えましょうか」

そんな風に返しながら、
どこかで分かっている。

このやり取りに、終わりはない。

終わらない言葉

疲れていくのは、
回数のせいではないのかもしれない。

”終わらなさ”に触れ続けているからだ。

あの人は、また言う。

「帰りたい」

同じ言葉。
同じ声。

でも、同じではない気がする。

あるときは、
誰かを待っているように。

あるときは、
何かをやり残したように。

あるときは、
ただ居場所がずれているように。

「帰りたい」の中身は、
いつも少しだけ違っている。

少しだけ、ずれている

それでもこちらは、
同じ形の言葉で受け取ろうとする。

うまく返そうとするほど、
少しずつ遠くなる。

もしかすると、

あの人が探しているのは、
帰る場所ではなく、

”ずれていない自分”なのかもしれない。

誰かに呼ばれて、
やることがあって、
時間が前に進んでいた頃。

そこでは、迷わなくてよかった。

今は、少しだけずれている。

場所が、ではなく、
自分の輪郭が。

だから人は、戻ろうとする。

「帰りたい」と言われたとき、

答えを探す代わりに、
その人の”向いている方向”を想像してみる。

どの時間にいるのか。
誰と一緒にいるのか。
何を終わらせようとしているのか。

ほんの少しだけ、
その方向に寄せてみる。

言葉でもいい。
間でもいい。
立ち位置でもいい。

重なる瞬間

何も変わらない日もある。

また同じ言葉を聞く。

それでも、
ときどき思う。

噛み合わないやり取りの中に、
ほんの一瞬だけ、
重なる瞬間があることを。

帰ることはできない。

終わることもない。

それでも、

その人が戻ろうとしている”どこか”に、
一歩だけ近づけることがある。

介護の仕事は、
何かをうまくやることだと思っていた。

でも今は、少し違う気がしている。

うまくいかないままの時間に、
どれだけ一緒に立てるか。

その静かな積み重ねが、
あとから意味を持つことがあるから。

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理学療法士H
理学療法士。典型的なB型気質、一匹狼で徒党を組むのが大嫌い。他人の悩みや相談事を自分の事のように取り込んでしまい、体調が悪くなるのが欠点。趣味は、この世の人間関係の仕組みを解明すること。
当ホームページは、リハビリ脳を鍛えるためのサイトである。「リハビリ脳=日々の生活をリハビリ的視点で捉える事」と定義している。身体機能のリハビリのみならず、揺れ動く心のリハビリにも焦点を当てて考察している。
キネシオロジーと波動療法の専門店「こころのて整体院」を運営し、心と身体の癒しの場を提供している。
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