「いま何時?」「今日は何曜日?」「ご飯はまだ?」
介護現場でよく見られる認知症の人とのやり取りだ。1日に何十回も繰り返される同じ質問。最初は笑顔で答えていても、次第に「さっき言ったでしょ!」と叫びたくなる。それが現場の本音だ。
まずは4コマ漫画をどうぞ。
同じ質問を繰り返す




質問は「情報の確認」ではなく、「生存確認」である
私たちは「いま何時?」と聞かれると、つい時計を見て数字を答えてしまう。しかし、認知症の人にとって、数字そのものに意味はない。
知らない土地で一人ぼっちになり、周りの人が全員知らない言葉をしゃべっている…。そんな状況を想像してみよう。
あなたは必死に通行人の袖を引いて「ここ、どこですか?」と聞くはずだ。そのとき通行人に「北緯35度、東経135度ですよ」と数字で返されたら、安心するだろうか?
「いま何時?」という質問の正体は、「私はここに居ていいの?」「あなたは私の味方なの?」という、必死の生存確認なのだ。
正解を答えるのは、プロの「手抜き」である
認知症の教科書には、「初めて聞かれたように答えましょう」とご丁寧に書いてある。でも、それはただの「作業」である。
松下幸之助氏は「お客様が求めているのは、商品(答え)ではなく、その先にある満足(安心)だ」と考えた。
「3時ですよ」と正解を答えるだけで終わらせるのは、相手を「しゃべる時計」として扱っているのと同じ。つまりコミュニケーションの手抜きである。
プロの仕事は、質問という「カモフラージュ」を見抜き、その奥にある「不安」を直接叩き潰すことにあるのだ。

「相手が求めているのは、答え(商品)ではなく、安心(満足)である」
「答え」を捨てて「安心」を投げ返す
もし10回連続で「いま何時?」と聞かれたら、11回目はそのまま時間を答えるのはやめてみよう。
- 何か心配な事でもありますか?
- ずっとここにいるから大丈夫ですよ。
- ゆっくりお茶でも飲みましょう。
こうして、相手が本当に求めている「安心」という直球を投げ返すのだ。
「いま何時?」という質問を「私を安心させてほしい」というナースコールだと解釈を変えるだけで、あなたのイライラは劇的に減るはずである。
松下幸之助氏が教えるプロのまなざし
松下氏は、どんなに困難な状況でも、「これはこれとして、どうすれば良くなるか」と前向きに捉える大切さを述べている。
同じ質問を繰り返されることを「迷惑な作業」と捉えるか、「相手の不安に触れるチャンス」と捉えるか。
利用者は、霧の中で迷っている船だ。あなたは、ただ時刻を告げる看板であってはいけない。相手を目的地(安心)へと導く「灯台」であれ。
言葉の意味に縛られず、その裏にある感情を直接すくい取ること。これこそが、介護のプロの対応術なのである。
まとめ
認知症の人が同じ質問を繰り返すとき、我々は「またか」と思ってしまう。しかしその質問の奥には不安な気持ちが隠れている。
彼女は安心を探している。
そう思うと同じ質問も、少し違って聞こえてくる気がしないだろうか。


