車椅子に座っている利用者の足(股関節)が、内側に入ってしまっている(内転している)。現場でよく見かける光景だ。
だが正直に言おう。現場の介護職は、利用者の足が少し内側に入っているくらいでは、気にも留めないはずだ。
皆さんが「足が閉じている」ことを問題視し、タオルを挟みたくなるのはいつか。それは、「ガチガチに内転拘縮を起こし、おむつ交換の時に足が開かなくて、業務に支障が出たとき」だけではないだろうか。
もしあなたが、「あのガチガチに固まった足を開くための100均グッズ」を探してこの記事にたどり着いたのなら、申し訳ないが期待には沿えない。一度ガチガチに固まった拘縮を、こんなクッション一つでこじ開けることは不可能だからだ。
しかし、少しだけ考えてみてほしい。あのガチガチの足は、ある日突然出来上がったわけではない。
今回は、ダイソー商品で「内転防止クッション」を作りながら、なぜ利用者の足がガチガチに固まってしまうのか、その残酷なメカニズムと「手遅れになる前のサイン」について解説する。
完成品


⚠️【重要】実践される方へ
100均素材を使った自作ツールには、PL法の適用外となるリスクや、現場の他職種との摩擦を生む可能性があります。実践前に必ず以下の記事をご一読いただき、現場の構造をご理解の上、自己責任でご活用ください。

車椅子上で「股が内側に入る(内転する)」7つの原因
股が内側に倒れる原因は、利用者の身体状と、車椅子という「環境」のミスマッチから生まれる。原因を見極めずに股を広げようとするのは無意味だ。
環境(物理的)要因
①座面がたわんでいる
車椅子の座面(スリングシート)は平らではなく、中央が沈み込んだハンモック状になっている。このすり鉢状の傾斜によって、足は自然と内側に転がり落ちてしまう。

②フットレストが高すぎる
足が浮いて不安定になり、バランスをとるために足が内側(または外側)に倒れやすくなる。

③フットレストが低すぎる
太ももの裏が座面に強く押し付けられ、座面のたわみの影響をダイレクトに受けて内側へ倒れやすくなる。

④足先の位置が不適切
フットレストに乗せた「足先の位置」に影響を受ける。

身体的要因
⑤拘縮がある
股の内転内旋筋群にすでに拘縮(関節の固まり)があれば、当然ながら閉じた状態がデフォルトになる。

⑥麻痺や筋力低下がある
筋緊張が低い弛緩性麻痺の場合、重力と座面の傾斜に負けて内側に倒れ込む。
⑦身体が斜めである
例えば、左側の骨盤が前方へ偏位していると、左の足が内側に倒れやすくなる。

100均DIY:見栄えも機能も妥協しない「内転防止クッション」
股の間にただタオルを挟むだけでは、見栄えが悪く、すぐにズレてしまう。そこで、ダイソーのクッションを改造し、内部に「なだらかな山」を持たせた専用クッションを錬成する。
材料
クッション(40㎝×40㎝)

タオル

作り方のステップ
クッションの真ん中(股に当たる部分)の布地に切り目を入れる

切り目から、折り畳んだタオルを差し込む。タオルの厚みで山の高さを調整する。

中に入れたタオルがズレないように整え、切り目をしっかりと縫い合わせる。

股に掛かる部分だけが「なだらかに盛り上がった」状態になれば完成。この突起が、足が内転していくのを防ぐ「防波堤」となる。


【深層解説】ガチガチの拘縮は「無視されたSOS」の成れの果てである
なぜ、私たちはこの「なだらかな山」を持ったクッションを作るのか。それは、重度の拘縮を直すためではない。「今まさに、ガチガチの拘縮への道を歩み始めた人」を救うためだ。
誰も気に留めない「姿勢としての内転」
車椅子のハンモック座面に座らされ、足の裏も浮き、身体がグラグラと不安定な状態。この恐怖の中で、利用者は何とか骨盤を安定させようと、無意識に両足をピタッと閉じる(内転させる)。
これが、すべての始まりである。
この時点では、足はまだ固まっていない。しかし、足が閉じているだけではオムツ交換に支障は出ない為、忙しい現場の介護職は誰もこの「姿勢の崩れ(SOS)」に気付かない。
「放置」が筋肉を拘縮へと変える
不安定な車椅子に毎日、何時間も座らされる。その間、利用者は倒れないように、来る日も来る日も股の筋肉(内転筋)に力を入れ、足を引き寄せ続ける。
脳は「ここは常に力を入れておかなければ命に関わる環境だ」と学習し、やがてその筋肉の緊張は、スイッチを切ることが出来ない「拘縮(ガチガチの固定)」へと変貌していく。
皆さんがオムツ交換で悲鳴を上げている、あのガチガチの足は、「不安定な環境に対する自己防衛」を、何か月も、あるいは何年も放置してしまった結果(なれの果て)なのだ。
結び:100円のクッションは「未来の拘縮を防ぐワクチン」
一度固まってしまったものを、力でこじ開けることはできない。無理にタオルを打ち込めば、伸展反射でさらに固くなるだけだ。
だからこそ、手遅れになる前に気付かなければならない。フロアを見渡してほしい。まだ固まってはいないが、いつも足をギュッと閉じている人はいないだろうか。オムツ交換は普通に出来るからと、放置されている人はいないだろうか。
このダイソーのクッションは、彼らのためのものだ。足元を安定させ、この柔らかな突起で「もう踏ん張らなくても倒れないよ」と教えてあげる。
それは、数年後に彼らがガチガチの拘縮で苦しむこと(そして皆さんがオムツ交換で腰を壊すこと)を防ぐ、100円のワクチンなのである。







