【介護の骨5】お父さんはなぜ運動会で転ぶのか|身体のイメージと深部感覚のズレ

運動会の徒競走。真っ白な体操着に身を包み、「パパのカッコいいところを見せてやる」と意気揚々にスタートラインに立ったお父さん。

ピストルの音とともに力強く蹴り出した…はずが、三歩目で無残にも前のめりに転倒。自分の足にひっかかるようにして土を踏む。

この「お父さんの悲劇」は、単なる運動不足や筋力の衰えだけで片付けられるものではない。実は、私たちの脳内にある「精密なGPS」のバグが引き起こす、極めて物理的な現象なのだ。

【4コマ漫画】深部感覚

理学療法士Hは年をとってつまずきやすくなった
深部感覚の衰えが原因として考えられる
車の開錠ができなかったり事務所のカギ穴に差し込みにくかったりする深部感覚鈍麻
体温計がケースの入らない、先が思いやられる

脳は20代、肉体は40代unundou u父さんはなぜ運動会で転ぶ

なぜ転ぶのか。結論から言えば、「脳が描いている自分の足の位置」と「実際の足の位置」が数センチ、ズレているからである。

私たちの脳は、これまでの人生で積み上げてきた「成功体験(全盛期の動き)」を記憶している。お父さんの脳内では、かつて部活動で風を切って走っていた20代の感覚で、「一歩踏み出せば、足はこの位置に着地する」という命令が出される。

しかし、現実の肉体は、筋力の低下や関節の柔軟性の減少により、その命令通りの位置まで足を引き上げることが出来ないのだ。

「深部感覚」という名の見えないセンサー

私たちは、自分の足を見なくても、今それがどのくらい曲がっていて、どこにあるかを知っている。これを可能にしているのが、筋肉や関節の中に埋め込まれた「深部感覚(固有受容感覚)」というセンサーである。

椅子に座って目を閉じてみる。この時、自分の膝や足首がどれくらいの角度で曲がっているかイメージできますか。

理学療法士の視点でいえば、加齢や運動不足によってこのセンサーの精度が鈍ると、脳内の地図(ボディマップ)が更新されず、古い地図のまま全速力で走ることになる。

脳は「100㎝先に着地した」と思っているのに、実際は「95㎝」しか届いていない。そのたった「5㎝の誤差」が、自分の足を引っ掛け転倒を引き起こすのだ。

深部感覚…自分で確かめる方法がある!深部感覚テスト

それでは、あなたの脳内GPSが正常に動作しているか、「深部感覚テスト」で診断してみよう。

以下のテストは、目を閉じて行なうこと。視覚のフィードバックを遮断することで、各関節からの位置情報が、
脳へ正確に伝達できるかどうかを評価するテストである。

指指テスト(ポインティング)

目を閉じる。両手を横に大きく広げ人差し指を立てる。そして人差し指同士をくっつけてみる。ズレてしまったら、座標認識にノイズが混じっている。

親指つかみテスト(サム・キャッチ)

目を閉じる。片手の親指を立て、反対側の手でつかんでみる。つかめなかったり、つかむ位置がズレたりしたら、空間把握のバグだ。

ロンベルグテスト

両足を閉じて立つ。その状態で10秒間、目を閉じてみる。目を開けていた時よりも、ふらつきが増えたら、姿勢制御のOSが視覚に依存し過ぎている証拠だ。

位置覚テスト(ミラーリング)

目を閉じる。検者が右足を適当な角度に保持する。反対側の足(左足)を同じ位置に持ってくるよう指示する。同じ位置に持ってくることが出来なかったら、深部感覚が鈍麻している可能性あり。

理学療法士Hの目:ボディマップの「再起動」

お父さんが転ぶのは、心が折れたからでも、やる気がなかったからでもない。ただ、脳が自分の「今」を正しく把握できていなかっただけなのである。

これは、リハビリテーションの現場でも同じだ。失われた機能を嘆く前に、まずは「自分の身体感覚のズレ」を認め、脳内の地図を最新の状態に書き換えること。今の自分の足がどこまで上がり、どこに着地するのか。その現実を脳に再教育する地道な作業こそが、怪我を防ぎ、再び自由な動きを取り戻すための「芯のスタートライン」となる。

結論

「自分はもっと動けるはずだ」という熱い思いは、時に身体を裏切る。だが、その想いを「今の身体を正確に操る知恵」へと変換できたとき、お父さんは再び、家族の前で凛とした走りを見せることができるだろう。

当サイトが掲げる「リハビリ脳」とは、過去の栄光にしがみつくことではない。「現在の自分の座標」をクールに見極め、最適化されたコマンドを打ち込むハッキングの技術のことなのだ。

さて、深部感覚の問題も大きいのだが、やはり「筋力」の問題は気になるところだ。

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理学療法士H
理学療法士。典型的なB型気質、一匹狼で徒党を組むのが大嫌い。他人の悩みや相談事を自分の事のように取り込んでしまい、体調が悪くなるのが欠点。趣味は、この世の人間関係の仕組みを解明すること。
当ホームページは、リハビリ脳を鍛えるためのサイトである。「リハビリ脳=日々の生活をリハビリ的視点で捉える事」と定義している。身体機能のリハビリのみならず、揺れ動く心のリハビリにも焦点を当てて考察している。
キネシオロジーと波動療法の専門店「こころのて整体院」を運営し、心と身体の癒しの場を提供している。
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