介護やリハビリの現場には、理屈では説明できない不思議な現象がある。
同じ介護をしているはずなのに、あるスタッフが近づくと利用者は穏やかになり、別のスタッフが近づくと途端に不穏になる。この差はいったいどこから生まれるのだろうか。
その答えのヒントは、以外にも最先端の科学である「量子力学」の中に隠されていた。
「観測」するまで、その人は確定していない
量子力学の世界には「観測者効果」という驚くべき現象がある。
物質の最小単位である素粒子は、誰にも見られていないときは、あらゆる場所に同時に存在する「波(ふわふわした可能性の重なり合い)」の状態にある。しかし、誰かがそれを見た(観測した)瞬間に、パッと一つの「粒(はっきりとした現実)」として姿を確定させる。
これをケアの現場に置き換えると、恐ろしいほどの真実が見えてくる。


怒りっぽい人?何もできない人?
さて、あなたの目の前の利用者さんは、果たして「怒りっぽい人」なのだろうか。「何もできない人」なのだろうか。
実は、あなたがドアを開けて関わるその瞬間まで、相手が「どんな人であるか」という現実は100%決まっているわけではない。
実は、「怒りっぽい人」と「穏やかな人」が、重なり合って同時に存在しているのだ。
あなたが、「この人は怒りっぽい」という強い予測(観測)を持って接したとき、その量子的な波は瞬時に「怒り」という形に収縮し、現実として固定されてしまう。
つまり相手の反応は、「もともと備わっている性格」ではなく、あなたの「まなざし(観測)」というエネルギーが作り出した物理的な結果なのである。
もしあなたが、「この人の中には、まだ誰も気づいていない優しさがある」という新しいフィルターで観測を始めたらどうなるだろうか。
その瞬間、重なり合っていた可能性の波の中から、別の現実が「粒」となって姿を現す。
「認知症」というラベルが現実を固めてしまう
私たちは無意識のうちに、相手にラベルを貼って観測している。
「この人は認知症だから、話が通じない」「この人は麻痺があるから、手伝わなければならない」
そう決めてかかって(観測して)接したとき、相手はあなたの前で「話の通じない人」「助けが必要な人」という「現実」として固まってしまう。
相手が持っていたはずの「穏やかに笑う可能性」や「自力で動ける可能性」を、私たちの思い込みが消し去っているのかも知れないのだ。
相手の不穏な行動は、案外、こちらの「この人は不穏になるに違いない」という観測に対する、素直な反応なのかもしれない。
「今、この瞬間」のまなざしを整える
大切なのは、過去のデータや未来の不安に縛られず、「今、この瞬間の相手」をどう捉えるかである。
「この人は、実は寂しがり屋なだけかもしれない」「この人は、本当はもっと自分でやりたいのかもしれない」
そうやって、相手の中に眠る「良い可能性」を信じて(観測して)手を差し出すとき、量子力学の魔法が解けるように、相手の新しい一面が現実のものとして現れる。
私たちの「内面(イメージ)」が整えば、自然と相手への近づき方や声のトーンも変わる。その微細な変化を、相手の脳は敏感に感じ取っているのである。
ケアの本質は、ともに新しい世界を創ること
リハビリテーションとは、単に動かない身体を使えるようにすることだけではない。ケアをする側とされる側が、互いに「良い観測」を送り合い、新しい「今」を作り出していくプロセスである。
相手を変えようと必死になる必要はない。先ずは、あなた自身の「まなざし」を少しだけ変えてみること。あなたが「この人は素晴らしい人だ」と新しく観測したとき、目の前の景色は必ず変わり始めるのである。
まとめ|明日から使える3つの処方箋
最後に、この記事の要点をリハビリ脳的なアクションプランとしてまとめる。
- 「色眼鏡」を自覚する;
「あの人は怒りっぽい」と思った瞬間、あなたの脳はその証拠ばかりを探し始める。先ずは、自分が相手を「どう観測しているか」に気付くことから始めよう。 - 相手を「可能性の波」として見る;
人は観測されるまで、どんな姿にもなれる「波」のような存在である。「今日は穏やかな人かもしれない」と、あえて白紙の状態で向き合う勇気を持とう。 - 「今、この瞬間」の距離を整える;
観測(イメージ)を書き換えたら、次は物理的な動きを変えてみる。温かいまなざしを持って「一歩踏み込む」ことで、相手の中に眠っていた新しい現実が動き出す。
4コマ漫画で具体的手法を見てみよう
次の4コマ漫画は、まさに量子力学的な技術である。「見られていない隙に、現実を書き換える」。これこそが、物理法則をハックする介助のテクニックなのである。
