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常識を疑え3 ~移乗介助は健側方向じゃないと駄目なのか~

投稿日:2016年11月29日 更新日:

今日は「常識を疑え」シリーズの第3弾です。介護の「常識」と呼ばれるものについて、ちょっと違った角度から論じてみたいと思います。テーマは「健側方向へ移るのは何故か」です。ご一読ください。


 

■片麻痺の移乗介助は健側方向へ…
「車いすからベッドに移る時は健側方向へ移る…。」
介護の職員さんなら、誰もが知ってる方法論です。では、もしも新人職員さんが利用者様の移乗介助をする時に「患側方向」へ誘導してたら、あなたはどう思いますか。「勉強してない職員だなぁ」と思うかも知れませんね。

しかし良く考えると、ベッドサイドの場面において、移る時は健側方向へ介助しますが、じゃあ戻るはどうしてるでしょう。患側方向へ介助しませんか。新人さんに「先輩!戻る何で患側方向なんですか」と聞かれたら、どう答えますか。

 

 

■介護福祉士国家試験テキストより
「介護福祉士一問一答問題集(2016年度版)」からの抜粋(一部変更)です。

<問題> 片麻痺の利用者が、車椅子からベッドに移乗する場合は、利用者の「患側」にベッドが来るよう車椅子をセッティングする。
<答え> × 利用者の「健側」にベッドが来るようにする。

このように、国家試験では「健側方向」へ移乗することを推奨しています。

 

 

■全て健側回りでのセッティングをしてみよう
さて、そもそも実際の場面において、健側方向だけでベッド環境をセッティング出来るのでしょうか。

図は、右麻痺の利用者様がベッドへ移ろうとしている図です。健側方向に移るのが正解ですから、ベッドが自分の左側に来るように車椅子を置いています。

さて、ベッドへ移った利用者様が、今度は車椅子へ戻ります。今の車椅子の位置では「患側方向」へ移ることになってしまいますね。「健側方向」へ移るためには、車椅子の位置は何処になりますか。

 

 

■このセッティングは可能なのか
健側方向へ移乗する為には、下図の場所に車椅子を置く必要があります。つまり「ベッドへ移る時」と「車椅子へ戻る時」では、車椅子の位置は反対になるという事なんです。しかし実際の場面で、この場所に車椅子を置けるでしょうか。そもそも誰が車椅子を反対側へ運ぶのか、もし介助バーがあったらどうするかなど、様々な問題点が想像できます。

それなら、ベッドの向こう側に置けば健側方向になりますかね。しかしこの場合も、車椅子を反対側へ運ばなくてはならず、更に右麻痺で寝ている利用者様は「右側(麻痺側)」へ起きなくてはならなくなり、新たな問題となります(関連記事『常識を疑え6 〜なぜ寝返りは患側方向じゃダメなのか』)。

以上より、健側方向のみを目指したセッティングは、現実的に難しいということです。

 

 

 

■「○○○知恵袋」の質問コーナーより

『うちの施設の上司が、ポータブルトイレを患側に置けって言うんです。でも教科書では健側に置けって書いてあるし・・・。どちらが正解なんでしょうか。』

さて、この質問にきちんと答えられますか。ヒントは、上で述べた「健側方向セッティングの問題点」と、次に紹介する「看護師国家試験問題」です。頑張って解いてみましょう。

 

 

■第98回 看護師国家試験問題 問題3(一部変更)

<問題> 右片麻痺患者のベッドサイドにポータブルトイレを置く位置を図に示す。適切なのはどれか。

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■答えは「②」
看護師国家試験の解答を見ると、「健側方向へ移る為、②である」と述べられています。当施設の勉強会では、答えが②と③に分かれました。このように分かれた理由は、「健側方向を優先するのか」と「ベッドサイドの配置を優先するのか」との違いなのだと思います。本当は健側方向が、安全で良いと思うのだけれど、実際のベッドサイドの環境では、患側方向を容認せざるを得ないという事なんですね。

 

 

■患側方向への移乗訓練
健側方向だけを目指したセッティングは難しいことが分かりました。実際には患側方向への介助が暗黙の了解のうちに行なわれています。しかし国家試験レベルを見ると、いまだに患側方向への移乗介助は間違いだとされています。この矛盾が、前述「○○○知恵袋」のような質問に繋がっているのですね。
「潜在力を引き出す介助」の著者である田中氏は、患側方向への移乗介助を想定した「逆移乗トレーニング」が必要であると述べています。つまり患側方向への移乗を否定しないということですね。もしあなたが介護職員なら、様々な場面で移乗介助をする機会があると思います。付き添いが出来る時には健側回りに固執せず、あえて難しい「患側方向への移乗」を練習してみませんか。

 

 

 

■常識を疑え
教科書に書かれていることを「忠実に」実践することは、身体の回復を目指す為にも、また安全を確保する上でも大切なことです。しかし、実際の場面では教科書通りに行かないことも沢山ありますよね。もう一度、介護の「常識」を見直してみませんか。
さて、冒頭の新人職員さんの言葉、「先輩!戻る時は何で患側方向なんですか」という質問に、今ならきちんと答えられますね。

 


関連記事;4コマ漫画『PDCAサイクル① ~あとのまつり~』

 

 


 

 

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